現在の職場で働き始めるまで、結核が、法律とガイドラインに、これほどまで規定されているなんて、思っていなかった。病院では直接関係のない内容、でも、法律等には、とても細かくキッチリ決められていることに驚いた。
そして、学生のころ話だけ聞いたことのある結核研究所の研修に、まさか自分が行くことになろうとは、思ってもいなかった。
研修の「復命書」というものを書くのだが、大事なところだけメモ書きにしてみたら、重要な情報がけっこうあったので、備忘録としても、ここに残しておく。
研修は6/12までだった。そのまま、おっきーと幹ちゃんと東京で待ち合わせをして合流。
6/13は、幹ちゃんの誕生日だったし、せっかく清瀬市に来たので、家族3人で国立ハンセン病資料館を訪れた。研修中、ちょうどNHKで放送されているのを見て、これはなんとしても行かねば!と思った。
研修が終わったらすぐ帰る人が多いようですが(どこの自治体も研修にお金を出せなくなってきて、スケジュールに余裕もなくなり、研修自体も5日間から4日間に詰めてやるようになってさらに時間がなくなり…)、結核研究所での研修をするなら、ぜひこの資料館にも足を伸ばせると良いと思います。
ちなみに、7/2-7/3はHIV関連、10月は危機管理関連で東京に行かせてもらいます。
以下、結研の備忘録。
---------------------------
復命書:平成27年6月9日~6月12日 結核研究所で開催された「医学課研修・医師対策コース」
1:質疑応答について
(1) Q:結核菌の保管事業について、豊橋市ではVNTRをせず保管のみ施行しているが結研やほかの自治体ではどうか。この事業はいつまで続けるのか、永年ならば国が保管してくれるという動きはないか。
A:細菌検査科 科長 高木さん→専門家ではないので、後日メールでお返事をいただける、と。
私:そもそも保管事業を推進したい厚労省に聞いたほうがいいかしらん。
(2) Q:就業制限について、乳幼児であっても塗抹陽性なら就業制限をかけることとなっているが、そのように制度が作られた歴史的な背景は。
A:末永医師→背景は分からないが、就業制限はあくまで「通知」として全員に出すものだと理解している。実際に制限に当てはまるかどうかは二の次。単なる「通知」だから、厚労省は、乳幼児にも出せという。
A:副所長 加藤医師→背景は分からない。厚労省は乳幼児にも出せとは言わないのではないか。
(3) Q:〇〇病院のような長期入院が必要な病院で院内感染が発生した場合、管理健診はどうするか。
A:複十字病院 吉山医師→年に1回の胸部Xpで十分。あとは有症状のとき受診。
(4) Q:〇〇病院に入院中の骨結核の患者さんの治療について、現在はRFP、PZA、EB、SMを使用しているが、今後はどのようなレシピが良いだろうか。
A:複十字病院 吉山医師→骨結核の標準治療はない。私ならばSMは2カ月くらいでやめて、RFP、PZA、EBは1年くらい続ける。なお骨結核の管理健診に胸部Xpは不要。
2:所感
医師対策コースでは、「レントゲン読影」がありました。講堂の壁一面にレントゲンが60枚並べられており、研修期間中に個々人で読影をして、最後に答え合わせをする機会がありました。
また講義内容の傾向として、結核菌の微生物学的な特徴や、化学療法の歴史、耐性菌の特徴など、かなり学問的に突っ込んだ講義が多いという印象を受けました(だから勉強としてはとても面白かったですが)。学問的に突っ込んでいる分、個々の支援をどうするかといった内容が削られてるだろうと思いました。
3:各論(メモの抜粋)
(1)「結核の治療」結核研究所 臨床・疫学部部長 伊藤邦彦
・なんとしても耐性化を防ぎたい→なぜなら、使える薬が限られており、開発しても新薬が出てこないから。
・強い薬(よく効く薬)から耐性化する。
・すべての結核治療は、単剤で使ってはいけない!
・内服を1-2回忘れたところで耐性化はしないが、Drの処方が悪ければ耐性化する。
・空洞1つで結核菌10の9乗個。
・治癒しても、理論的には結核菌をゼロにはできないので、3カ月で再発することもある。それは仕方がない。
・だから、治療の目標は、再発率をできるだけ低下させることである。
・多剤併用療法は、耐性化を防ぐためであって、治療のスピードを速くするためではない(菌が早く死ぬわけではない)。
・治療期間が長いので、患者さんには「いつ治療が終わるのか」の見込みを伝えると、脱落率が下がる。
・培養は4カ月たてば普通陰性になるので、もし4カ月たっても培養陽性なら、何かおかしい。
・治療を始めてすぐの発熱、胸水、CRP↑などの初期悪化は仕方がない。治療を変えてはいけない。
・MDR(多剤耐性結核)は、5年で20%死亡する。
・外科療法は、「悪くなったらやる」ものではない。治療のはじめに予めプランするもの。
・MDRの化学療法は、18-24カ月だが、複十字病院は24カ月の治療をしている。
・副作用について、PZAの肝障害は時に死ぬ(重症の肝障害ほど急に来る)、INHでは死にはしない。
・LTBIの治療は、「発病するリスク」を抑えるものであり「除菌のため」の治療ではない。だから、QFT陽性=治療、という考え方は間違っている。
・INH投与中は、1か月に1回は採血がよいと思われる。それでも肝機能異常の予防はできない。
(2)「肺結核の画像診断」結核予防会複十字病院 副院長 尾形英雄
・人間は、側臥位になると、悪いほうの肺を上にして寝る(良いほうを下にすると血流↑で楽になるから)。そうすると、結核菌が垂れこんで対側に行き、両肺の結核が完成する。
・レントゲンでは絶対に見えない場所がある、ということを勘定に入れておくべき。
・結核菌自体には、接着物質がなく、脂質でコーティングされているので、防御性が強い。ただし感染力は弱く、下気道に入らなければ感染しない。
・結核は、日本では高齢者の病気だが、世界では若い人の病気です。
・肺の空洞病変は、結核菌がいなくても、抗原さえあれば空洞が作られる。
・空洞化は、気管支と交通したときに初めてできる。だから結核の初期では塗抹陰性でも、時間が経過して治癒してきたときに空洞ができ、そのときあとで塗抹陽性になる理屈である。
・腸結核の発症は2パターン。最初に体内に入って腸でトラップされるパターンと、肺結核で飲み込んで痰と一緒に腸にはいるパターンがある。
・気管支リンパ節結核でも、リンパ節が気管内に顔を出すと、排菌するようになる。
・咳喘息で吸入ステロイド使う人が増えたおかげで、気管支結核も増えた。
・生きた菌=培養で生えてくる菌。死んだ菌=塗抹陽性でも培養で生えてこない菌。だから、塗抹やPCRが陽性でも培養が陰性なら死んだ菌。
・paradoxical responseは、治療中や治療終了後に出てくるXpの悪化や、熱、痰の症状で、無治療でよいもの。死菌が出てくるが、治療はいらない。もし勧告入院させたとしても、培養が陰性とわかったら治療をやめるべし。
(3)「抗酸菌検査の役割」結核研究所 抗酸菌部 細菌検査科 科長 髙木 明子
・休眠状態の結核菌には、代謝依存型の薬剤が無効=INH、EB、SMなどが無効!
・喀痰の品質:膿性痰のほうが、塗抹陽性率が高い、というエビデンスは、ある。
・結核菌は、アルコール30%以上の環境で、すべて死ぬ。
・抗酸菌は、培養やDNAハイブリダイゼーションを使っても、7%は同定不能(一般検査室のレベルで)。
・感受性試験は、もしすべての薬剤が耐性なら、まずはNTMとのコンタミを疑う。
・感受性試験は、治療開始後3カ月以内はそもそも培養陽性となる場合が多いので、たとえこの時期に培養陽性の追加検体が出されても、感受性の再試験をする必要はない。
・PZAの感受性試験は、試験自体やらないことも多いが、もしやるなら偽陽性に気をつける。
(4)「結核対策の制度と課題」結核研究所 副所長 加藤誠也
・制度上、結核に疑似症はない=疑い症例であっても、確定例として届け出て、あとで転症除外するシステム。
・LTBIも届け出なければならないが、たとえばリウマチで免疫抑制剤を使うからINHを使う、というときにも、これはLTBIとしての届け出が必要。ただし、現場のDrに知られていないので届け出はとても少ない。
・公費負担申請の診査は、明確な理由がないと却下できない。だから「眼結核です、治療します」といわれて、それはほとんどありえない症例だとしても、「眼結核ではない」と証明できないので、なかなか却下できない。
・法律上は、「管理健診」という言葉はない。
・退院させることができる基準において、喀痰の検査は、痰が出ないと言われてもネブライザーくらいはやってほしい。吸痰までしなくてもよい。
・DOTSは、日本人の「古知新」が世界に広めた。
(5)「接触者健診の強化」山形県健康福祉部 医療統括監 阿彦忠之
・結核は「制圧」、麻疹は「排除」という言葉を使う。
・中耳結核とは:耳鼻科で院内感染して広がりうる。また難聴が残る。器具の消毒方法など確認が必要。また患者さんは上気道病変の有無の確認を(中耳と上気道はつながっているので)。
(6)「結核菌の分子疫学」結核研究所 抗酸菌部 結核菌情報科 主任 村瀬良朗
・結核に感染した人のうち、2年以内に発病するのは5%、人生の終盤に発病するのは5%。つまり、感染者の10%程度だけが発病するのが自然歴である。
・VNTRは、12カ所以上のlocusを比較する。ただし、現在、接触歴が推定される事例では、12カ所のlocus比較をしたときに、1locusの違いは許容して、同じ菌株と捉える必要がある。
・RFLPの突然変異は2年に1つくらい入る。VNTRも同じくらいのスピードと考えられるが、実際に10年後の再発患者のVNTRをやるとけっこう一致する。
(7)「結核サーベイランスの活用」 結核研究所 臨床・疫学部 疫学情報室長 内村和広
・年齢が上がると、発症時の症状は、呼吸器症状以外の症状が増える。
(8)「結核の疫学」「BCG接種」 結核予防会 名誉所長 森 亨
・発病率、患者が感染源となる率、患者でない人が感染する率を下げると、患者が減る。
・感染率において、医療施設内での1日は、外界での1か月に相当する。
・結核に感染したあとの発病率は、若い人>高齢者。高齢者は数が多いだけ。つまり年齢自体は発症リスクではない。
・コッホ現象に対応する予防内服は、ハードルを下げてよい。
(9)「コホート検討会の実践と課題」 結核研究所 対策支援部 保健看護学科 科長 永田容子
・患者さんに行うDOTSは、患者さんからは「保健所に管理されたくない、服薬できているから確認は不要だ」と言われる。そんなときは、「DOTSの目的は、きちんと治療すること、MDRを患者さんの体内で作らないこと、誰でも飲み忘れがあるので一緒にサポートすること」と伝える。保健所のためではない、と伝える。
(10)「院内感染対策・IGRA」結核予防会複十字病院 診療主幹 吉山 崇
・LTBIの治療は、もし対象となる結核菌がMDRならば治療しない。
・T-SPOTやQFTは、たとえば1年前陰性、現在陽性なら、1年以内の感染の可能性が高いが、100%ではない。つまり年齢によっては古い結核感染の可能性がある。
・QFT陽性となるのは、結核菌のみではない。Kansasii、Marinum、szulgai、flavescen、gastriもQFT陽性となる!。ただしNTMに感染した患者すべてがQFT陽性になるわけではなく、陽性率は10-20%。
・QFTの判定保留は、国際的には陰性と判断される。基本的には判定保留は陰性。
・T-SPOTの判定保留は、6-7個なら陽性の判定保留、5個なら陰性の判定保留。
・とはいえ、複十字病院のスタッフにQFTとT-SPOTを両方行うと、どちらかだけ陽性となる場合があり、あらたな感染の危険が高くない場合は、かなりばらつく。
・IGRAは、感染率が低い集団に検査を行うと、陽性者の多数が実は感染ではない事になる(偽陽性)。よって、感染が疑われる集団で検査を行うべき。
・IGRAは、80歳以上では発症しても陽性になりにくい、免疫抑制状態でも陽性になりにくい。
・発症した人が、IGRAが途中で陰転化した人は再発しやすく、陽性のままの人のほうが再発しにくいらしい(免疫力の差か)。IGRAが途中で陰転化した人は、発症した時点でまた陽転化するが、陽転化した人すべてが再発するわけではない。
・妊婦のLTBI治療は積極的に推奨すべき。出産したあと新生児に結核が感染すると、それこそ大事に至る。治療薬のINHでは奇形性の報告はない。添付文書は、あくまで可能性がある、つまり無いとう証明ができていないので書いてあるだけ。INHがなくても奇形は出るので関係ない。
・高齢者のIGRAは、既感染があっても2/3は陰性。
・ベースラインのIGRAが必要かどうか=精神科病棟や長期療養型病棟では、あってもよい、というレベル。他は、診断時のほうが信頼度が高いのではないか。
・健康管理において、BCG未接種でかつIGRA陰性の場合は、BCGを打っておくとよい。
・複十字病院では、入院患者が塗抹陰性、PCR陽性で、入院勧告の対象外のとき、2wkくらいは個室管理としている。
(11)「世界の結核対策」 結核研究所 対策支援部 企画・医学科 科長 太田正樹
・ツ反は、日本では48hr後に判定しているが、世界では72hr後が多い。
・世界において、胸部レントゲンは読影技術が個人レベルによるので、患者の発見には使わない。細菌学的検査のほうが大事。
・世界では、結核の治療薬は基本的に合剤。
・9か月治療のコースは設定されていない国がある。日本で9カ月コースの治療をうけている途中で帰国すると、母国では再治療として扱われる場合がある。
・外国人が日本で治療中にどうしても帰国したいと言ったら、培養陰性化を確認してから飛行機に搭乗を。WHOが発行している「tuberculosis and air travel」と、IHR2005の国際ルールが参考。 以上。
0 件のコメント:
コメントを投稿