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2023年6月14日水曜日

【誤謬の指摘】結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る:「就業制限と解除」の記載について

下記書籍の「就業制限と解除」について、誤謬あるいは誤解される表現を見つけたので、指摘しておきます。
この指摘は、あくまで「書籍の内容」と「現状のルール」に齟齬があることだけを指摘したもので、書籍自体を否定するものではありません。

・書籍
結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る
すべての臨床医が知っておきたい、診断の進め方と治療の基本
佐々木結花/編,特定非営利活動法人 非結核性抗酸菌症研究コンソーシアム/編集協力
2017年03月27日発行 B5判 207ページ ISBN 978-4-7581-1802-6

・指摘箇所
p93<就業制限と解除>
「(就業制限を通知する)業務は、教師、保育士などの教育関係者、医療従事者、理・美容業、飲食店などを指す」

1.まず「就業制限対象職種」には、感染症の種類によって規定があります。
たとえば、腸管出血性大腸菌(O-157など)の場合は、「飲食物の製造、販売、調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務」に対して、一定期間従事してはならないという「通知」がされます。したがって、たとえば「教師」は飲食物を取り扱わなければ、就業制限とは関係ありません。
一方で、結核の場合は、「接客業その他多数の者に接触する業務」に対して、一定期間従事してはならないという「通知」がされます。書籍では「教育関係者、医療従事者、理・美容業、飲食店などを指す」と記載されていますが、結核の就業制限は「業種」で規定されているものではありません。書籍の記載根拠が気になるところです。

2.「その他多数の者に接触する業務」とは何を示すのか。
結核の就業制限は「業種」で規定されるのではなく、この「その他多数の者に接触する業務」すべてが対象です。ここでいう「その他多数」とは「本人以外の者」と解されています。つまり「1人でも接触する相手がいる業務」は、すべて対象です。
この点について疑問がある場合は、厚労省に問い合わせると良いでしょうが、1人でも接触する相手がいる場合は、就業制限の対象となる旨の答えを聞いています。

3.就業制限は「通知」でり「お知らせ」である。
よく「就業制限をかける」という言い方をしますが、「就業制限をかけるか否か」は「患者の結核が就業制限の対象となる状態かどうか」によって決まります。業種如何で決まるものではありません。
そして就業制限は「通知」であり「お知らせ」です。実際に働いているか否かに関わらず、「就業制限の対象となる状態にある患者」には、すべて、就業制限が通知されます。
働いていない乳幼児や、入所中の高齢者であっても、「就業制限は通知」します。つまり「喀痰の、塗抹、培養、核酸増幅法のいずれかの結果が陽性である患者」には、就業制限について「お知らせ」することになっています。
・参照:詳解 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 四訂版 p108-109

4.感染症審査協議会で審議する適否
「業種」を審議するのではなく「患者の結核が就業制限の対象となる状態かどうか」を審議するものです。つまり「無症状病原体保有者に就業制限をかける」ということのないように審議するのであって、「就業制限に当てはまる業種か否か」を審議するのではありません。就業制限の対象となる業務は、厚生労働省令で定められているものであって、感染症審査協議会が定めるものではないからです。
感染症審査協議会では、就業制限がかけられた患者の「喀痰の、塗抹、培養、核酸増幅法のいずれかの結果が陽性である」ことをきちんと確認することが求められます。

<結論>
・結核の就業制限は、業種によって規定があるものではない。書籍で「教育関係者、医療従事者、理・美容業、飲食店など」との記載は、誤謬or誤解を生む表現である。
・たとえ「接客業その他多数の者に接触する業務」を生業としていても、「その他多数の者に接触」しなければ、従事してよい。
・つまり、教師や保育士であっても、誰にも会わずに一人で作業するのならば、就業制限の期間内であっても、従事することができる。
・この書籍にある記載のような理解をした自治体は、誤った就業制限の取り扱いをしてしまっている。たとえば大分県のホームページには以下の記述があるが、この運用は誤りである。
<就業制限に該当する業務>
旅館、料理店、飲食店または接客業で客の接待、身の回りの用務、部屋の清掃等の業務、遊技場や娯楽場での客の取扱いに従事する業務、理容や美容に従事する業務、家政婦の業務、保母その他常時小児に接する業務、保健師や看護師、あん摩師等の業務等が該当する業務となると思います。
従事禁止の適否は、保健所に設置されている感染症診査協議会結核部会によって決められます。(引用おわり)

さて、結核による就業制限の取り扱いは上記の通りで、書籍の記載が誤っているワケですが
本当は「就業制限の是非」そのものや、運用そのものの是非を、再検討する必要があるだろうと思っています。

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