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2021年10月27日水曜日

講演聴講メモ:2021年10月26日:COVID-19のこれまでの対応とこれからの課題

講演聴講メモ:2021年10月26日:COVID-19のこれまでの対応とこれからの課題
東北大学 大学院医学系研究科微生物分野 教授 押谷仁

専門家会議のメンバーである押谷先生が、いまどんなテンションで、何を考えているのか、それを知りたかったので、講演を聞きました。
そのメモです。

先に、講演を聞いた個人的な感想を書いておきます。

・「コロナのデータ」しか見ていない。
・「データになるもの」しか見ていない。
・「都合の良いデータ」を集めている。

これに尽きます。どんな感染経路で広がっているのか、クラスターはどうやって発生するのか、クラスターのつづきはどうなるのか、そういう話をすべてデータで語っています。
でも、それは「論文になるもの」だけを見ています。論文になる、ということは、ムダをそぎ落とし、話を単純化し、ストーリーが作られる、そういうもの、ということです。

この何がダメなのか。
答えは「データはデータであっていい、でも、それがすべてじゃない」ということです。
感染経路なんて単純化できないし、データがあたかもすべてのように考えられてしまいます。そのデータが誰の都合で作られたものかも知らずに。
でも、データで示してしまうと「データがあるという強力なバイアスが入る」のです。
そうして得られたデータが裏付ける証拠は、最優先事項ではないにも関わらず、証拠として扱われ最優先事項になってしまいます。

話の途中に出てくる「クラスター対策としてスーパースプレッダーやスーパースプレッディングイベントを極力減らすこと、それがひいては家庭内感染や施設感染につながるから」という"たとえ話"が良い例です。
もはや「クラスター対策」の言葉の意味が変わってしまってから久しいですが、「クラスター対策」も「スーパースプレッダー」も、"たとえ話"ですからね。
「そういうこともある」のであって「それがすべて」ではありません。
でも、第1波~第5波を、すべてこれで説明できると思ってると、全国一律、同じような対策をすることになってしまいます。結局、スーパースプレッディングイベントと定義されるものは「全国どこでも中止」になってしまうし、この考え方がある以上、目指すものはゼロコロナしかなくなります。

専門家会議がこんな調子では、5類になんてなりません。
("総意"とか言われちゃったし…)

価値観の話とか、検査で防げないって分かってるのならそれもっと言ってよ、とか、東京の都合を地方に押し付けないでよとか、言いたいことは山ほどあるけど、まあ、やめておきます。
研究は結構ですが、もっと「公衆衛生をやっている人」の声も聞いてほしいと思っています。


<以下、聴講メモ>
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・今日(10/26)もアドバイザリーボードの話し合いがあった。先のことは分からないのだが、まだまだなかなか終わらないだろう。年末に向けて厳しい局面があるだろうと思っている。

・2020年2月の時点では、その後の状況は分からなかったが、厳しいことが起こり得ると言ってきた。
・第5波は大きな波だったが、ワクチン接種がかなり進んでいることもあり、死者は少なかった。でも首都圏を中心に患者が多かったので厳しい状況になった。

・昨日10/25時点のWHOの発表:感染者2億4000万人、死者490万人
アメリカは落ち着いてきたが、ヨーロッパはいまも感染拡大が続いている。この状況がまだ進むだろう。

・SARSは8ヶ月足らずで、封じ込めに成功した。世界中で約8千人の感染者、774人の死者。
・COVID-19は病態が違うので、SARSのようにはならなかった。
・SARSは下気道でしかウイルスが増えなかった。だから下気道からウイルスを医療行為を通して出すことをしたときに院内感染として主に感染が拡がった。
・COVID-19は、肺でも、上気道でも増える。上気道でウイルス量が多いのに、重症化しない、気が付かない間に感染が拡がる。こういうことがコントロールを難しくした。
・SARSにくらべて、COVID-19は裾野が広い。無症候性原体保有者もある。SARSはほとんど重症化したから見つけることができた。だから感染連鎖を断つことができた。
・COVID-19は感染源が分からずに、突然クラスターが起こる。リンクの分からない例が出てきてしまう。これは、クラスターにつながるまでの途中の感染者が見つけられないから起こる。

・SARSとCOVID-19のもう1つの違い。SARSは重症化した人しか感染性がなかった。COVID-19は、発症する前にも感染性があり、発症直後にも感染力が強い。
・エボラもSARSも感染性がある人は重症化した人なので、封じ込めることができる。
・インフルエンザ、COVID-19は、封じ込めが難しい感染症である。これは数理モデルでも確かめられている。

・COVID-19の、どれくらいの人が、どのタイミングで感染性を持つのかは、分かっていなが、無症状の人でも感染するので難しい。
・議論としては「検査を徹底的にやれば封じ込めることができるのではないか」という話がある。しかし検査前確率が低い人に、徹底的にやっても、効率が悪い。一部、感染リスクの高い集団に対しては、ある程度やっていくのも一案。しかし一般の無症状の人にやっても、効率が悪いと早い段階から分かっていた。

・Mass Testingの有効性:たとえ毎週検査しても、実効再生産数は2%くらいしか下がらない。
・PCRの感度も、そこまで高くない。ウイルス量が少ないタイミングでは見つからない。感染初期では検出限界以下。COVID-19の可能性が高い人に対してやっても半分くらいしか見つからない。PCRですべての感染者が見つかるわけではない。

・COVID-19の弱点:Overdispersion。多くの人は他人に感染させない、誰にも感染させていない。ただし「スーパースプレッダー」が存在する。あるいはスーパースプレッディングイベントが存在する。これが起こらないと、感染伝播が維持されない。これが、国内でやってきたクラスター対策の理論的な背景である。制御できないワケではない。

・ランダムイベント、特に、普段会わないような人たちと会うと、そこで感染する。そういうイベントをできるだけ減らせば、感染が減ることが分かっている。一人の人が多くの人に感染させることを減らすこと。これがCOVID-19のアキレス腱である。

・国内の積極的疫学調査:保健所でかなり初期からやっていた。
海外では前向きの疫学調査しかされていない。日本では、前向きの疫学調査と、同じ場で感染させた人を見つける、という作業もやってきた。これがかなり効いて、患者が拾えた。
・「クラスターの感染源」は、若い人が多い。若い人は同時に症状が出にくい。だから元気なままイベントに参加するので、発症前に感染させてしまう。「ジム、カラオケ、ライブ、イベント→家族→高齢者施設」というのが典型的なパターン
・病院や施設は、dead endで終わってしまう。
・学校や、家庭内感染は、わりと閉じているので、感染の起点になることは少ない。

・中国はなぜ封じ込めに成功しているのか:人の動きを止めている。また人が会わないようにしている。これがかなり聞いていると思われる。三密やリスクが高まる5つの場面、を制御している。

・経済との両立や、時短に従わない飲食店、宅飲み、などあって、国内で制御は難しかった。

・飛沫感染、飛沫核感染、のみならず、短距離のエアロゾル感染がある。単に呼吸をしているだけで感染源になる。空気感染は例外的にしか起きないが、エアロゾル感染はそうとう起きていると思われる。だから大きな声でしゃべったり、歌ったり、これがエアロゾルを発生させる→感染が増える。そういうイベントを減らすことが必要。

・ウイルス量と、感染しやすさを見ると、当然ウイルス量が多ければ(CT値が高ければ)人に感染させやすい。しかし、高齢者はCT値が低くても、感染させやすい。耳が遠いから大きな声でしゃべるとか、介護を受けているなど理由がある。高齢者はウイルス量が少なくても感染させる。

・2020年2月:専門家会議:封じ込めは難しいので、いかに被害を最小限に抑えるか、を目標にしてきた。
・たとえば北海道:北海道全土で見つかったが、「見つかった」というのは日本のアドバンテージ。NYとかでは、初期は見つけられなかった。

・日本での武漢由来のウイルスは、2020年3月中旬までに制御しきった。
その後はヨーロッパ由来、エジプト等の由来が入ってきてしまった。

・第1波:おさまったが、おそらく首都圏、歌舞伎町に残っていたのだろう。
・第2波、第3波、ほとんど東京。東京のベースラインが下がっていかない。
・第4波までは、どうしても東京の感染源が残ってしまっていた。最後まで東京を消せなかった。
・しかし、第5波の後は、東京の感染者が、かなり減っている。なぜ減っているのかは、なかなか分からない。
・第5波の減少要因は分からないが、1つは五輪などのイベントが終わったことと考えられる。しかし正確には分からない。

・東京の第5波のドライビングフォースは、明らかに若い人だった。若い人の感染が収束したら高齢者が増えるのがいままでだったが、それはなかった。だから収束が早かった。
・収束の原因を、ワクチンで説明しようとする人がいるが、ムリがある。若い人はほとんど打っていなかったのだから。
・実際の要因は「リスクの高い人」の感染がかなり進んだことかも。20代のうち3%はもう感染している、実際は10%くらいいるだろう。つまり自然免疫をつけたのではないか、と考えている。

・小児の感染者について:学校が始まったら増えると思っていたが、思っていたほどは増えなかった。
・夏休みの間は、保育所とかあったけど、大人の感染自体が収まっていったので、それほど増えなかった。小学校、中学校も同じ。
・塾のクラスターは目立った。高校生は部活や大会が目立った。

・どんな人がどんな人と接するか。
子ども同士は接触頻度は高い。だからインフルは流行する。
しかしCOVID-19は、インフルのパターンになっていない。その理由は分かっていない。小学生以下の子供同士の感染は多くない。
・中学生や高校生は二次感染が起こる。でも小学生や幼稚園保育園は、二次感染が起きにくい。だから、新学期になって学校でそこまで増えなかった理由だろう。さらに新学期になったとき大人は感染者が減っていたので、子どもも感染しなかった。

・ワクチンの有効性
感染を防ぐだけではなく、重症化も防ぐ、そのことは分かっていた。しかし、疑問符がつくデータが徐々に出てきた。
・デルタ株に対する有効性は、やや下がる。90%未満。
・そしてブレイクスルー感染が起きると、ウイルス量が減っていないことが分かった。ワクチンを打った人も、発症初期には感染性が高い。そのあとは感染性が下がっていくが。
・有効性の減弱:waning
デルタ株に対するファイザーの有効性:4か月以上たつと、93%→50%くらいにまで有効性が下がる。
高齢者、男性、免疫力弱い人:抗体価が下がりやすい。重症化の阻止効果もやや下がる。

・英国のブレイクスルー感染
18歳以上では、74%がブレイクスルー感染。
死者も80%がワクチン接種済の人。ただし、英国ではワクチン接種が進んでいる背景もある。
・英国の抗体保有率:90%以上の人が何らかの抗体(ワクチンor自然免疫)を持っている。それでも感染者が減らない。

・日本も、何もしなければ、感染者は爆発する。緊急事態宣言などで、なんとか抑えている状況。
・米国と英国と比べて、日本はとても抑え込んでいる。これは対策をしているからこそ。
・シンガポールもかなり厳しいことになっている。
・台湾は一旦増えたが、また抑え込んでいる。中国と同じように厳しい対応をしているから。
・インド、インドネシアは、ワクチン接種は低いが、患者は減っている。日本も、ワクチンだけで減っているワケではない。

・医療の逼迫は、日本だけではない。イギリスでは、通常の医療ができなくなっている、他の疾患の待機者が多くて、通常の医療を提供できていない。
・米国では、ICUに入れない、ということがデータであった。

・2020年の10月も、日本では患者は少なかった。いまも患者は少ない。しかし、去年はそのあとで患者が増えた。日本では、今後、増える事も想定して、どうしていくか考えていかなければならない。


<質疑>
Q:ワクチン3回目やっぱり必要?
A:ファイザーのほうが効果の減弱が強い。ファイザーは30、モデルナは100ml。ここのところからwaningの問題が出てくる。医療従事者、高齢者は、抗体価が下がっている人がかなりいるだろう。
元気な高齢者はいいが、80代以上は感染すると亡くなるので、ブースターしたほうがいい。
医療従事者は、3回目は接種しない、という人がいるようだが、ブースターしないと、制御は難しい。

Q:米国で5-11歳でワクチン打つと言っているが、どうする?
A:米国では相当小児の感染者が多いから。日本では少ない。まだ検討中で、難しいところ。mRNAワクチンを使うのか、国産ワクチンを使うのか、より安全なワクチンが出てくるかも。

Q:インフルは流行するか?
A:去年はまったく流行しなかった。今年、南半球ではまったく流行しなかった。インフルは世界中を循環している。その人の動きが止まっていることが、主な理由と考えられている。国内では、海外からの渡航がどれほど再開されるかによる。予測は難しい。準備は必要。

Q:10/31のハロウィンが心配です。
A:できるだけ慎重に。そのあと続くのは忘年会なので、ここも慎重に。飲み会で飲食店は大変な思いをしているので分かるが、人数制限、時間制限、おしゃべり制限。当面は避けた方が良い。

Q:経口薬は?
A:薬が出てきた意義は大きい。重要。ただし期待が先行してしまう。どの程度、重症化を防げるのか、どのタイミングで投与するのか。1/3に減らせる効果があったとしても、残り1/3は重症化するので、すべてを解決することはできない。ワクチンも同じで、ワクチンですべてを解決することはできない。制御は続ける必要がある。

Q:指定感染症の先は?5類になる?
A:分科会のメンバーは「慎重にやるべきだ」と思っている人がほとんど。まだまだ早すぎて、インフルと同じように防げる、とは思っていない。ポテンシャルが高いウイルスなので、5類とかの話は、慎重にやるべきだと思うし、分科会の総意だとも思う。

Q:健康観察の潜伏期間はもっと短くできないか
A:デルタになってからどうか、は、まだ分からない。短縮している可能性もあるが、serial timeとgeneration timeが短いかもしれない。デルタで分かっていることは、ウイルスの排出量が増えた、とは分かっている。

Q:PCRではなく、抗原検査を頻繁にやるほうがいいんじゃないか?
A:抗原検査の危ないところは、感度が悪いところ。感染して2-3日では陰性になる。でも陰性になった翌日には多量のウイルスを排出している。頻回にやることを組み合わせられるか、が問題。
デルタは「症状を自覚しやすくなったのではないか」とも言われている→感染が見つかる可能性が増えたかも。
観察期間を短くしていくのは、世界的な流れ。14日間の自宅待機は、コンプライアンスが守れなくて効果が下がる。コンプライアンスが上がるように柔軟に考える必要がある。実際には5日目までに発症する人が多いので。

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