ここでは、参考文献の引用および感度・特異度の検証結果から、問題点を1~7まで上げ、それを受けた結論までを、私見として提出します。問題点のうち完全な私のオリジナルは、次の3点です。それ以外は、すべて参考文献を一部改変したものや、そのままの引用です。
・先行して実施された自治体の検査で陽性となった事例は、ほぼ偽陽性であった可能性を否定できない。
・感染率が低いために、正確な感染率を把握することすらできない。
・事業として実施する場合、住民を用いた「実験・研究」とならざるを得ない。
異論、反論、いろいろあるかと思われますが、なによりもまず「検査の感度・特異度、陽性率、感染率」の検証で上げた問題点を、1つ1つクリアーすることができるかどうかが鍵です。そんなに難しい計算をしているわけではないので、せめてこのような検討をきちんとして、議論する必要があります。
【中学生にピロリ菌検査をする場合の問題点】
1.感染率が低い。検査の感度も低い。
日本における小児の感染率は極めて低く、欧米先進国とほぼ同程度の低率である。また感染率が低いために、正確な感染率を把握することすらできない。この集団に、感度の低い現在のスクリーニング検査を施行した場合、かなりの割合で偽陽性が生じ、不必要な治療を招く。先行して実施された自治体の検査で陽性となった事例も、ほぼ偽陽性であった可能性を否定できない。
2.ピロリ菌に関するガイドラインあるいはコンセンサスの不一致。
除菌の適応年齢、除菌の意義、除菌の是非、小児のピロリ菌による胃がんのリスクに関して、一定のコンセンサスが得られていない。
3.中学生にスクリーニング検査して治療するための小児科的視点が不足・不確かである。
日本における小児のエビデンスが十分ではない。小児におけるメトロニダゾール(治療薬の1つ)の長期的な安全性は確立していない。また除菌失敗時の耐性菌増加リスクがある。さらに、除菌が成功したとしても、腸内細菌叢の変化、アレルギー疾患、肥満、高脂血症、逆流性食道炎が増加するリスクがあり、小児の不利益となる可能性がある。ゆえに、治療の是非自体が検討中である。なお、現時点では小児には除菌治療の保険適応がない。
4.小児への費用対効果が不明。
胃がん予防のためには、胃がんリスクが高い集団に対してスクリーニングして除菌することは、費用対効果が高い。一方、日本の小児は「胃がんリスクの低い集団」であるため、費用対効果が不明である。したがって、いま事業として導入した場合、効果が得られるのが将来のいつになるのか不明な事業を数%増やすことになる。そのため、すでにある医療の普及・効果的な事業への費用が相対的に数%減る。
5.世界的コンセンサスは、「健常児にはスクリーニング検査と除菌は必要ない」である。
小児のスクリーニングの適応は、ベースに症状があるかどうかで決めるものであり、ただ単にピロリ菌の存在を確かめることに適応があるのではない。スクリーニング検査は少なくとも20歳を過ぎた成人で実施することが妥当である。
6.いま事業として導入した場合、いつまで実施するのか、終わりの設定が困難となる。
学術的な批判に耐えうる水準の実証研究を根拠にして、事業の提言を行うことが、現時点では非常に困難である。中学生に対してスクリーニング検査して除菌することが妥当であると判断できる情報・データが、事業施行「前」の立案の段階から存在しない中では、事業施行「後」の評価も厳密にはできない。ゆえに、たとえエビデンスが弱いとしても、一度実施されてしまうとスクリーニング検査をやめることが困難になる。
7.この状況で、公金を投入する妥当性は。
事業として実施する場合、住民を用いた「実験・研究」とならざるを得ない。こうした状況では、ただちにこの事業に着手することは無謀で、信頼性の低い研究・提言をもとに、見切り発車的に開始することになる。そして実施後は十分な評価もできない状況に陥り、数年周期で同じような見直しを繰り返すことになる。
【結論 】
現時点では、ピロリ菌の対策は、少なくとも20歳を過ぎた成人で実施するべきである。
健常児には、スクリーニング検査と除菌は、事業として実施してはならない。
【参考文献・引用元】
1.Management of Helicobacter pylori
infection—the Maastricht V/Florence Consensus Report. P Malfertheiner et
al. Gut 66 (1), 6-30. 2016 Oct 05. 【問題点1、2、4、6】
2.New Diagnostic Strategies for Detection
of Helicobacter pylori Infection in Pediatric Patients. Gastroenterol Hepatol
(N Y). 2014 Dec;10(12 Suppl 7):1-19. 【問題点2、3、5】
3. Cost-effectiveness of screening and
treating Helicobacter pylori for gastric cancer prevention. Best Pract Res Clin
Gastroenterol. 2013 Dec;27(6):933-47. doi: 10.1016/j.bpg.2013.09.005. Epub 2013
Sep 27. 【問題点2、4】
4.日本ヘリコバクター学会ガイドライン2016【問題点2、3、4】
5.日本小児科学会2016学会シンポジウムによる注意喚起【問題点2、3】
6.小児科臨床 60(12); 2307(181)-2411(185), 2007 消化性潰瘍薬 -酸分泌抑制薬とH. pylori除菌療法-【問題点1、2、3、5】
7.「改革」のための医療経済学 兪炳匡 メディカ出版 (2006/7/1) 【問題点4、6、7】
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