「ピロリ菌の感染をスクリーニング検査して除菌する」という話は、研究が盛んで、すでに実施している自治体の情報のお陰もあり、検討する上では比較的豊富な情報が得られる内容だと思います。日本でも、たとえば神奈川県医師会は、これを事業としてではなく、臨床研究として位置づけてやっているようです。すでに見てきたように、小児の感染率は低いうえに、検査の感度・特異度から偽陽性になる可能性が否定できず、治療の是非すら確立していない状況です。ですから、研究の結果報告では、除菌できたかどうかは分かっても除菌の是非判定はできないはずで、分かることは症状の有無、感染率の推定、検査の感度・特異度などにとどまると予想されます。また、心配として、この研究は200人と規模が小さいこと、そもそも研究として成り立たせて良い前提条件なのかということ、費用は医師会が負担することになっているようですが本当に全額を医師会が負担していて、かつ、自治体が他で医師会にアドバンテージを見るなんてことは一切ない研究かということ(つまりCOIは”正直に”開示されるか)などありますが、研究である以上、結果が示されることを待ちたいと思います。
今後も様々な報告が出てくることが予想されますが、このように情報を吟味できる環境にあるのは、ピロリ菌だからだと思います。他の内容では、ここまで情報を吟味することは容易でないことが多いです。そのため、事業として導入する観点では、兪教授が著書で述べている通り、根拠が希薄で見切り発車となっている事業があまりに多すぎると感じています。さらに、これも兪教授が述べていることですが、制度上のインフラが未整備のため、政策の「大失敗」を未然に防ぐことができる体制にありません。また、首長(事業を実施する責任者)からのトップダウンも、現に根拠が希薄な見切り発車を招いています。首長は、王様でもなければ社長でもないのですが、「流行にのって即反応してしまう」このルートの大失敗を、未然に防ぐ方法がないままでは致命的です。
情報を吟味することは容易ではありません。ですから現状では根拠が得難いのは仕方がない、間違っている事業をやってしまうこと自体もある程度は仕方がないと思います。だからこそ、間違っていると分かったときに正すことができる必要があります。それがバックアップであり、見切り発車して大失敗をまねかない、ということです。
ガイドラインや事業を作る私たち(首長、自治体、医師集団、メディア、住民代表者等)は、something newではなく、今やっている目の前のことをちゃんとやっているかどうかを自分に問います。事業を実施する側も、実施させようとする側も、たとえば「健康産業、不安産業に安易に乗り過ぎだ」と批判されたら、きちんと十分な知識をもって、慎重に思考し、謙虚に評価し、静かに語ることができるか、自分自身の姿勢を自分に問うのだと思います。
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