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2019年8月28日水曜日

「成功報酬型」と公衆衛生上のリスク

新薬販売、成功報酬型検討 アステラスなど欧米で
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48593950V10C19A8MM8000/
日経新聞 2019年8月15日

まことに日経らしい、製薬会社寄りの一方的な記事です。

---記事から引用します---
「米国では製薬会社が成功報酬型で販売する際は民間の保険会社と個別契約を結ぶ。効いた場合のみ支払うので、無駄な支出を減らせる。欧米では製薬会社が薬価を決め、公的な保険で推奨するかどうかが協議される。だが日本では薬価を国が定める仕組みで成功報酬型の導入を想定しておらず、制度の議論に一石を投じそうだ。」
---引用ここまで---

これを、たとえば以下のように書き直しました。

「米国では製薬会社が成功報酬型で販売する際は民間の保険会社と個別契約を結ぶため、新薬を使えるかどうかは患者が契約する民間保険次第である。米国では「無駄な支出を減らす」努力は、患者個人の責任だと位置付けている。欧米では製薬会社が薬価を決めるので、公的な保険で推奨されにくく、患者の私的保険の有無や支払い能力によって新薬が使えるかどうかが左右される。一方、日本では薬価を国が定める仕組みなので、いったん公的な保険で認められると、患者の私的保険の有無や支払い能力とは関係なく、新薬を使う機会はどの患者にも等しく保障される。いまこそユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の在り方が問われる。」

印象がずいぶんと異なるのではないでしょうか。

そもそも、なぜ「成功報酬型」にしなければいけないような、まだ「効くかどうか分からない新薬」を、そんなに急いで「採用」させなきゃならんのだ、という話です。「効かなかったらごめんね、払い戻すから」なんて言わずに、きちんと効果が証明され、適応が決まっていれば、その範囲で堂々と採用して売ればよいのです。
「治験が大変だから」は、理由になりません。効果判定のみならず、副作用判定すらできていないのに、成功報酬型にしてまで採用するような薬事体制は、単純に公衆衛生上のリスクです。その大変な治験を抜きにして、成功報酬型として採用するのは、採用の名を借りた人体実験です。ただし、一番やりたいことは実験ではなく、儲けを出すことなので、ここまでは話の半分です。

実はこれは、A国には「成功報酬型」で採用してもらっておいて、同じ薬をB国には「A国では採用されている」と言って強引に売りつける手段になるからです。もちろんB国には成功報酬型ではなく売り切りです。「成功報酬型」とは、単にA国で「採用」の事実を作りたい口実であり、B国で儲けを出すための手段となります。つまり、実はA国で新薬が効くかどうかなんて、一切関係がない、ということです。効果が生じる一部の患者だけ広告のために確保して、その他大勢に効果がなくても構わない、儲けはB国で予定する、という状態です。

成功報酬型しかり、インセンティブしかり。
報酬となるものがあるからには、犠牲となるものがあり、インセンティブとなるものがあるからには、無視したものがあるのです。ここでいう「犠牲となるもの」の最たるものは、日本の健康保険制度、つまり日本の医療提供体制そのものです。
うまい話には裏がある、必ずどこかにしわ寄せが行く、ということに、もっと自覚的になりたいものです。結局、DO NO HARMの原則を守れないのですから。

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