2018年11月30日~12月1日に岡山で行われた「日本子ども虐待防止学会第24回学術集会おかやま大会」に参加した。
今回のJaSPCANは、特別講演や大会企画シンポの質があまりに悪く、大会本部に別途指摘せざるを得ない内容であった。特に「大会企画シンポジウム2」で議論された内容は、学会の存在意義を疑わざるをえないものだった。
ごく簡単に問題点を解説する。「虐待を受けて保護した子どもは、いままで施設で保護し続けてきたけど、施設はやっぱダメだわ。家庭的な養育のためには里親がいいんじゃね?」という主張があり、この主張を受けて2017年8月に厚労省から「新しい社会的養育ビジョン」が示された。この「ビジョン」が、議論を呼んだ。
施設反対、里親賛成、これのどこが悪いの?と思われるかもしれない。より家庭的な里親で保護しようってのに、反対するなんて、子どものことを本当に考えているの?と思う方もいるだろう。しかし、ことはそう単純ではない。虐待を受けた子どもが成人し自立できるように支援するには、施設がベスト、などとは言わない。ただ、では里親なら安全か、というと、必ずしもそうではないのである。むしろ施設→里親にしたために、里親からの虐待を受ける事態や、里親を転々とさせられて自立どころではない事態が生じるのである。ゆえに、施設での養育に問題があるのは重々承知の上で施設は運営しつつ、里親制度も含めてより良い養育環境を整備するにはどうするのが良いのかを、建設的かつ「慎重に」議論し、みなで知恵を絞る必要があるのである。里親制度を否定したいのではない。そうではなくて、「本当に」子どもの視点に立って、子どもを支援することができているか、をこそ、自らに問いたいのである。
ところが、「新しい社会的養育ビジョン」と「大会企画シンポジウム2」からは、以下の2点が問題点として明らかになった。
1.施設に賛成か反対かと、わざと二項対立にして、安易に施設をつぶしにかかっていること
2.この方針が決まった背景には、施設縮小という結論が、なんと最初からあったこと
明らかになった上記2点は、まことに看過できることではない。アンケート本文として、大会本部に伝えたメールを、ここに編集して再録する。
---アンケート回答本文---
・奥山眞紀子先生へ。
目黒区の結愛ちゃん虐待死事件を、学会として全くスルーって、ダメでしょう。来年は必ず取り上げてください。これは学会の存在意義とオートノミーの問題です。何に忖度してるのですか。
・奥山眞紀子先生へ。
大会企画シンポジウム2「社会的養護の今後を考える:『新しい社会的養育ビジョン』が示した方向性を中心に」は、あまりにひどいシンポジウムでした。
まず、浅井春夫先生が指摘したように、抄録で「分断」と書かれて、話し合うこと自体が、残念です。これでは、わざわざ「分断をファシリテート」するようなものです。議論をファシリテートしましょう。
また、西澤哲先生のご発言は、看過できない点がいくつかありました。最も問題なのは、「『新しい社会的養育ビジョン』を決めるときに、どうやって決めたか教えてあげましょうか?ステークホルダーみんな集めたらいつまで経っても決まらないから、方向性が同じの決められる人だけを集めて決めたんですよ」とおっしゃった点です。(奥山氏、西澤氏、藤林氏は、「新たな社会的養育の在り方に関する検討会」の構成員であった。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_370523.htmlこの検討会は最初から結論ありきでスタートしたことが明らかになった。)これは「決めた」とは言いません。正しくは「独裁」と言います。議論の必要性を否定したのです。独断と偏見でもって多様性を無視し、「声の大きな人の意見が通る」という愚を犯したのです。まったく民主的な手続きではありませんが、その大変な手続きをやらなければ、虐待を扱う学会が虐待を犯すことになるのです。入国管理法改正の議論を「議論したらきりがない。幾らでも問題点は出てくる」と言った平沢勝栄自民党議員と同じです。
はじめから結論ありきで、自分と意見を同じくする人だけを集めて決めることができた、この成功体験は、何よりも甘美であったことでしょうし、一度この味を知ってしまった人は、もう二度と、他人の意見を「聴く」ことはできません(施設反対論者を自称する西山先生は、施設を擁護する他人の意見を「聴く」ことは二度とできません)。
私は、壇上で奥山先生がこの点に無反応であったことが何よりも残念です。きちんと議論できる学会、多様性を認める学会であってください。でなければ、学会で話し合われる態度それ自体が、虐待と同じになってしまいます。これは私たちが最も分かっているはずなのですが。
それから、西澤先生のスライドで、「アンケートとったら、大きな施設のほうが、子どもたちの状態が悪かった。これは里親制度をすすめる一定のエビデンスになる」なんて書かれていましたが、これではエビデンスとは言えませんよね。Aの現象の良し悪しを論じて、Bを勧めることには、大きな飛躍があるのに、それを「一定のエビデンス」なんて、フェイクニュースより悪質です。研究者なら分かると思うのですが…。
・そこで、学会の質を担保するためには、学会で使われるスライドをオープンにする必要があると思います。オープンにしては恥ずかしいようなスライドは、公の場で発表してはいけません。特に、大会企画シンポジウムは、発表者が自分の発言とスライドに責任を持つためにも、オープンにしてください。
・奥山眞紀子先生および大谷美紀子先生へ。
特別講演「子どもに対する暴力の撤廃」では、大谷先生はしきりに「学会開催おめでとう」とおっしゃって、講演が終了してしまいました。ですが、そんなおべんちゃらは不要でした。きれいごとばっかり言って人権と法律の充実をとしか言わない国連職員に、子どもへの暴力の根絶をなんて言ってほしくないと思ってしまいます。もっとリアルを議論して、マニュアルではなく、貧困と搾取のただ中にある家庭に役に立つ話をしてほしいです。学会としては、大谷先生のような国連職員には、国連としてどのような活動をしてほしいのかを、もっと要求をしていくべきです。良い意味で、大谷先生は「使える」存在のはずです。奥山先生が大谷先生のことを「来ていただいてありがとう」などと公衆の面前で言っている場合ではありません。大谷先生が雲の上の存在であってはいけない、と大谷先生も思われることでしょうし、自分を使ってほしいと思ってくださるでしょう。
・以上です。もしも、こんな風に指摘してくれる人が執行部にいないとすれば、それは執行部が均質化され、健全な運営をできなくなっている証拠です。執行部の若手のみなさん、恐れずにがんばってください。
---参考:抄録からの引用---
<大会企画シンポジウム2>
社会的養護の今後を考える:「新しい社会的養育ビジョン」が示した方向性を中心に
企画者:西澤哲(山梨県立大学人間福祉学部)
座長:奥山眞紀子(国立成育医療研究センターこころの診療部)、西澤哲(山梨県立大学人間福祉学部)
発表者:藤林武史(福岡市こども総合相談センター)、黒川真咲(児童養護施設調布学園)、西澤哲(山梨県立大学人間福祉学部)、浅井春夫(立教大学名誉教授)
「全体抄録」
(前略)
2017年8月に厚生労働省の「新たな社会的養育の在り方に関する検討会」が示した『新しい社会的養育ビジョン』に対して、関係者や関係団体から賛否両論の声が上がり、ときには激しい反論が提示された。
こうした反論の背景には、子ども家庭福祉のあり方に関する基本的な価値観の相違が存在するように思われる。こうした価値観の相違は子ども家庭福祉関係者の分断を引き起こし、今後の実践に重大な混乱をもたらす可能性がある。
そこで本シンポジウムでは、ビジョンが提示した里親養育の促進および児童養護施設などの改革に焦点を当て、ビジョンを支持する立場の専門家と、ビジョンに対して批判的な立場を取る専門家が同じテーブルにつき、それぞれの論点を明確にした上で建設的な議論を試みる。この議論を通して、今後の子ども家庭福祉のより良い姿を描き出すことができれば幸いである。
---引用おわり---
※蛇足ですが・・・
これは一見、両論をテーブルに乗せて平等に取り扱うみたいになっていますが、結局、施設反対論を「押し通す」という抄録になっています。ビジョン賛成側が書いた文章でしょう。膝つき合わせて議論しましょう、とか、不完全ながらも作りましたのでご批判を乞います、という態度ではないことがとても残念です。そもそも二項対立にして闘わせる必要はないのです。
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