平成30年6月17日に名古屋医療センターで開催された平成30年度第1回東海ブロック多職種合同HIV研修会に参加したメモです。
<個人的な感想>
1.せっかくこの地域の多職種が集まったので、どんな人が集まったのか名簿が欲しかったし、知り合いになりたかった。
2.県や厚労省の人の話があっても良いと思う。病院だけがHIVに関わる時代ではないし、結核対策に似ていて、地域包括ケアシステムの中でHIV対策を今後どうしていくかを考えるような、具体的な展望を語る機会がほしい。医療、保健、福祉、介護の、この職種間の垣根は患者さんには関係ないもの。我々プロにとっても、もはや職種のセクションに意味はない。
3.座学が多かったが、せっかく多職種が集まったので、もっと本音でディスカッションする時間がほしかった。
<愛知県 長尾>
身体、精神、経済など様々な支援が必要。Dr、薬剤師、MSW、カウンセラー、Nsなど専門性を生かしてチーム医療をする必要がある。この研修会はそのための相互理解を深めることを目的にしている。
日本では1日に4人、HIV患者が発生している。速報値だが、平成29年は1107人、そのうち3割はいきなりAIDS。原因の1つは、相談支援体制の不足があると思っている。
従来の専門病院だけでの支援ではなく、すべての医療機関でHIVの診療体制を整える必要がある。
<拠点病院以外の医療施設のHIV感染症者との関わり方 名古屋医療センター 横幕 能行>
・始めに:変更が望ましい抗HIV薬がある。d4Tはもう使うべきでないし、NFVはもうすぐ販売されなくなる。そのような資料を冊子の巻末につけた。
・エイズの予防指針が1月17日に全面改訂された→これから4年間はこの予防指針で走っていく。
・凝固因子製剤でのHIV感染者は、すべての県に一定数いるが、二次被害、三次被害もある。配偶者に(性的接触)、家族に(注射針)、子どもに(母子感染)。
・拠点病院が整備されはじめたのは平成5年。凝固因子製剤の和解の前の話。中核拠点病院は平成18年から。
・そもそも、平成5年の拠点病院整備の通知には「どこの医療機関でも機能に応じて」。つまり、拠点病院がすべてひきうける病気ではない。拠点病院は支援相談できる病院であって、すべてを拠点病院がひきうけるものではない。
・愛知県は名古屋医療センターに集中している。浜松医療センターも愛知県の集中型に似ている。三重県と、静岡の東側はバラバラで診療できる体制がある。地理的にバラけざるを得ないのか、頑張っている先生がいるのか、理解ある院長がいるからなのか、は分からないが。
・名古屋医療センターの受診者は減っているが、愛知県全体では発生数は横ばい。だから受診者が減っているといっても、喜べる話ではない。
・最近、性感染症でA肝が増えている。発生届出してくださいね。
・持続可能な診療体制にするには?たとえば名古屋医療センターは、このまま患者を吸い上げていてもいいが、病院のトップや自分(横幕先生)が変わったら、どうなるか分からない。
・梅毒は、若年の異性間性的接触が最多。HIVは、日本人のMSMが最多。
・拠点病院は、ほとんどが三次医療機関で、ほとんど医療加算I→感染対策のマンパワーはあるところ。
・日本の90-90-90は、世界トップクラスだが、さらに、「日本全国どの地域でも」できているのが特徴。さらに1000人の病院も、500人の病院も。
・亡くなるのは、エイズではなく、悪性のML、自殺、ガン、AMIで亡くなる。名古屋医療センターでも、エイズで亡くなるのは2015年までで、2016年以降はエイズでは亡くならなくなった。
・治療継続者の高齢化が進んでいる→施設や在宅で亡くなる人が増えている。
・HIVをカミングアウトしていない人でも、病院でなら明るく話せると受診が好きな人もいる。受診自体が感染予防にもなっている。
・行政制度として:身体障害者手帳が使えるのはとても大事。またドラッグラグはほとんどない。海外で承認された薬は、半年後に入ってきて、いきなり3か月処方が可能になっている。
・長生きできるようになった→想定外だが→地域の医療福祉施設との役割分担、連携を要する時代になった。
・平成5年の通知にもどって、通知どおりにやればいい。「どこの医療機関でも機能に応じて」HIVに関わればよい。HIVは特殊な病気ではない、ということ。(私:その通り!)
・かかりつけへの引継ぎは、一人でも患者をみているクリニックなら、継続は大丈夫。でも、薬剤の開始と変更は敷居が高い。
・ちょっとした誤嚥性肺炎とか、ちょっとしたレスパイトは、拠点病院では荷が重い。これを引き受けられる機関がほしい。
・HIV診療は、すべて標準予防策で対応可能。みなさんはプロフェッショナル。
・ただし、曝露時対応の処方は、ちょっと敷居が高い。迷ったら初回分の内服を開始するのだが、陰性の場合に労災が適応されない場合がある、という問題あり。ただし通知あり、陰性が分かるまでの処方も労災で診ることになっている。ちゃんと予防投与すると職業感染はしない。
・15歳から性交渉の機会が増えても、地域でウイルス量が減れば、感染のリスクが下がる。(私:その通り!)
・「HIV診ません」は、その病院の安全性が問われる。診療の質が問われる。(私:その通り!)
<HIV感染症患者の入院・入所の拡大のためにできること ギルエルコーポレーション 水野雄介>
・2月の環境感染症学会でも講演した。創業8年目。
・訪問看護で対応であって、Nsが24時間いるわけではない。
・4人HIV受け入れて、そのうち1人は看取りまでおこなった。
・HIV感染者の受け入れは突然はじまった。たまたま平成25年に名古屋医療センターに施設利用者を受診させたら、逆に相談されたのがきっかけ。
・職員からは反対があった。ので、第一歩として、知識不足を補う研修をやった。横幕先生とワーカーさんに来てもらった。職員の理解は進んだが・・・。
・家族にうつるのでは?→となって、HIV感染者の介護から外した→一時的にはよかったが、シフト組むときに困ったし、他の職員から反発も出てきた。
・1-2か月かかって、家族から理解はしてもらった(のでシフトに入ってもらった)が、感情の面では、納得にまでは至らなかった。
・耳鼻科受診の調整でも、HIV感染者だと分かったら、断られたこともある。
・職員に関しては、HIV患者の受け入れを通して、一般的な感染症に対する対策も深まった。
・看取り患者は、腫瘍や肛門部からの出血もあり、痛みのための疼痛コントロールも必要で、ゆっくり静かに看取ったわけではない。療養病院への転院も考えられたが、患者の希望はここで死ぬことだった(かつ延命治療は望まない)ので、職員でも話し合って、看取ることができた。
Q:HIVだから、施設としてコストが余計にかかったか。コストが変わるか。経営者としてはいけるが、現場としては反対だ、とかはあった?
A:コストは、単体で見ると赤字。医療依存度が高い=訪問看護が増える=介護の点数が取れない、となる。が、受け入れ先がないことは分かっていた。
Q:勉強会の0からのスタートは、どんなだった?
A:勉強会は、まずは冊子から始めた。尿、くしゃみ(では感染するか、というところから。ケアがはじまってからは、自分たちで冊子にして、不安がでてきたら、1つ1つ解決した。だんだんと、予防する行為が過剰になってくるが、職員は過剰になったほうが安心する。アイガード、シャワーキャップ、マスク、ガウン、で血が1滴もつかないようにした、ここまでやって職員は安心できた。1つ1つの不安を、すぐくみ取って、解消する、という勉強会を何度もやった。
Q:利用者同士の不安とか、嫌だといった人は?
A:利用者にはお話していない。個別ケア重視で、接触することはないので。
Q:他の利用者から、「今まではそんなことされなかったのに」手袋とか、マスクとか、別の利用者から訴えがあったことは?
A:もともと手袋は1ケア1手袋でやっていたので、別の利用者からの苦情はなかった。もしあっても、それは説明したと思う。さらにもともと要介護度が高いので、あまり他人にどうこう言う人はいなかった。
私:これは本当によく看取ったなあと思う。ただ、この施設に「今後もお願いします」というのでは情けない。「うちではやっぱり無理ね」なんて言ってるのでは他人事のままで、結局はこれも自分たちの姿勢が問われる、質が問われる。
<最近の抗HIV療法と服薬支援 名古屋医療センター 平野淳(薬剤師)>
・1日1回で済むように工夫されている、薬は劇的に変わっている。
・昔は副作用がとってもつらかった→だから治療開始を遅らせよう、という考え方もあったのは事実。
・いまは、副作用少なくなってるし、早く始めた方が予後が良いことも分かっている。ので、CD4値に関わらず、早期治療開始が望ましい。
・服用に関する負担軽減と、副作用の軽減を、しっかりやることが薬の開発理念に入ってきた。
・アドヒアランスの文献は、2000年のペーパー(Paterson et al. Ann Intern Med. 133:21. 2000)くらいしかない。よく引用される。ただし2000年の時代背景を考えると、いまの薬とはくらべものにならない(副作用にしろ錠数にしろ)。アドヒアランス(内服率)が95%を切ると、効果はガタ落ちする。これは今でも同じ。
・薬剤耐性ウイルスは100人に1人発生すると言われる=耐性化すると内服はとっても大変。
・副作用の発現頻度は、薬が変わって、低下してきている。各段に。
・「高齢化」によって、アドヒアランスが変わってしまう。薬が見えないとか、臓器の機能低下で使える薬に制限が加わるとか、のどに引っかかってうまく飲めないとか、包装を開けられないとか、忘れっぽくなったとか。内服の管理方法などに工夫が必要。
<HIV感染者に必要なケアの現状と課題 名古屋医療センター Ns羽柴>
・2017年、155人入院のうち、32人は感染症内科で最多、次に23人が外科、と続く。146人が軽快退院、4人が転院必要。出産1人。名古屋医療センターは毎年2-3人の出産がある。
・平成29年、HIV陽性妊婦:岐阜10人、三重35人、愛知94人、静岡14人。
・2017年、名古屋医療センターに初回受診者102人のうち、拠点病院47人、非拠点病院16人、保健所13人、と続く。
・AIDS発症して最初に受診するのは、拠点病院以外の医療機関が多い。
・初診前後のかかわり目標:次の受診につなげること(私:これは保健所も同じ。告知の目標は、まずは病院に受診するという直感を得ることが目標なので。)
<HIV陽性者の社会生活支援 名古屋医療センター MSW浅海>
・外来担当MSW、病棟担当MSWがある。MSW7人(?)。定期受診は1400人いる。
・あーのー。
<HIV陽性者の心理支援 名古屋医療センター 心理療法士 松岡>
・やはりまだまだ社会的な誤解がある。患者さんも誤解している場合がある。日常生活で感染してしまう、とか、発症は遅らせるが寿命が少し伸びるだけ、とか誤解がある。就職活動も誤解をもとに不利になることがある。
・9月に初めて、「公認心理士」の試験が開かれる。初めて国家資格になります。
<振り返りの挨拶 横幕>
木金の外来日しかいないので、横幕にアクセスしたければ木金に電話ください。
今後は、実地研修(臨床現場)もやりたいと思っている。
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