今回は、HIVの、主に検査~告知までの担当者向けの研修会に参加したメモ。
結研と同様、これまた、重要な情報がたくさんあったので、個人的な備忘録として、ここに残します。
「HIV感染症は、慢性炎症性疾患」だ、という発想が、目からウロコでした。
治療のガイドラインが毎年改訂されているのも、知りませんでした…。
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復命書::平成27年7月2日~7月3日「HIIV検査担当者向け研修会」@飯田橋レインボービル
1:質疑応答について
(1)Q:アメリカでのHIV検査プロトコルからは、Western blotが外れた。また日本でもWestern blotは偽陽性、偽陰性ともにあることが分かっている。それにも関らず、〇〇のプロトコルにはWestern blotが残っているのは、なにか理由がありますか。
A:理由は不明で、よく分かりません。PCRの費用などの問題なのかもしれない。Western blotが本当に必要なのかは議論の最中で、今後はELISAやICの検査後、Western blotを飛ばして、PCRを施行することは、考えられるかもしれない。
(2) Q: HIV陽性の夫婦が、妊娠を希望されている場合、日本ではどのような選択肢があるか。また紹介できる医療機関はどこか。
A:荻窪病院 小島賢一→パターンは以下の4つです。
1.夫がHIV、妻が非感染→荻窪病院に紹介を。費用は65万円くらい、詳細はホームページ参照。
2.夫が非感染、妻がHIV→妻は治療を受けて、そのまま妊娠計画を。
3.夫がHIV、妻がHIV→夫も妻も治療して両者のHIV型が一致を確認し、そのまま妊娠計画を。
4.夫が非感染またはHIV、妻がHIVでかつ不妊治療中→難しい、受けてくれる病院がありません。
2:他の参加者からの情報(抜粋)
<検査の同意>
・年齢によらず同意のサインをもらう施設もあり、その観点は「自分の意志で検査を受けることの確認であって、誰かに強制されて検査をうけるのではないことの確認」として位置付けている。
<治療>
・〇県の〇病院は、今後、HIV治療の拠点病院になります。結核病床もあるので、すぐには無理だが、いずれ結核+HIV合併も見られるようにしたいです。これからHIV治療は専門医でなくてもやる必要があるコモンな疾患として良いと思うし、若いDrのほうが敷居は低いです。
3:各論(メモの抜粋)
(1)講義① 「HIV感染症の基礎知識」国立国際医療研究センター 青木孝弘
・毎年HIV患者報告数は、「日本はHIV患者が増加傾向である唯一の先進国である」という言い方をされるが、そうでもない。HIV感染者はtotal2万人弱で、横ばい。日本は実数に伸びがなく、また総患者数は、米国と比べると日本は1/40以下。米国は、突出して多い。
・ただし、日本ではまだ「発見時にいきなりAIDS」という人が1日1人いる計算。1日1人AIDSを発症していることになり、まだ早期発見ができていない、ということは言える。
・AIDS患者が増加しているのは、先進国では日本のみである。
・また日本において、東京にHIVが多いとはよく言われるが、本当のところは誰にもわからない。HIV感染者報告数はたしかに東京が多いが、検査をして陽性になった機関が報告してくるのであって、「そこに住んでいる実数」ではない。
・HIVの歴史:AIDSは1981年に初めてロスで報告された、PCPだった。
・HIVの歴史:実際にウイルスが同定されたのは1983年。
・HIV-1とHIV-2があるが、日本ではHIV-2はほとんどない、HIV-1のみと考えてよい。
・治療は、ADIS発症前であれば、ほぼ日常生活に支障はないが、ADIS発症後からは予後が悪いので、発症前に治療の開始を。
・米国ではWestern Blot法は2014年から検査法として推奨されなくなった。理由は、1:急性感染を偽陰性と判定することがある、2:HIV-1とHIV-2をきちんと区別できない。
・HIV抗体検査が陽性の場合、確定診断がでるまでは、患者には、誰にも話さないように勧めておく。
・その説明は、家族ではなく、患者にだけ説明する。(家族への説明はダメではないが、患者に聞くのも手)。
・HIV抗体検査では、妊婦陽性例の大半が偽陽性なので、専門病院に紹介前に必ず確定診断を。
・治療費は、条件によって色々あるが、だいたい、月1万円の個人負担。
・B型肝炎の診断をしたら、HIVも調べてほしい。HBV治療の中にRTが入っているため、半端にHIVに効いてしまって耐性化する。
・繰り返す帯状疱疹でもHIVを疑う。
・やっぱりTBみたらHIV、HIVみたらTBを疑うべき。ただ高齢者はTBでもHIVはそう疑わない。
・米国ではHIVと診断したうちの10%にTB、日本ではHIVと診断したうちの1%以下にTB。
・HIV治療のガイドラインはネットで拾えます。日本のガイドラインはDHHSをベースにしている。
・日本の「抗HIV治療ガイドライン」は、毎年改訂あり、3月~4月に改訂されます。
・いまは「HIV感染症は、慢性炎症性疾患」と理解する。薬の開発がかなり進んで、日常生活ができている。
・治療中断群は死亡率が高い。
・早期ART(Anti-Retroviral Therapy)開始は、CD4>500であっても、死亡リスクを優位に減少させる。かつ、HIV治療成功例の予後は、非HIV患者と同等である。
・HIV感染者は、CD4値によらず、全例治療しましょう(いまは薬が本当によくなった。1T/dayでほとんど副作用なくいける薬ができてきたので、治療に早く入っても治療を継続できるようになった)。
・ARTによる間質性肺炎を起こす人は日本人にはほとんどいない。ただ海外では間質性肺炎を起こす人がいるので、その人のHLAの型を調べると分かるのだが、検査自体が高価。
・とにかく、アドヒアランスを考えて、現実的で飲める薬を処方!し、絶対に耐性化させないこと!
(2)講義② 「HIV検査の基礎知識」東京都健康安全研究センター 長島真美
・東京都健康安全研究センターは、地方の衛生研究所みたいなものです。
・HIV検査では、ELISAは病院、イムノクロマト法(IC)は保健所が多い。
・確認検査において、「PCR」と「NAT検査」は、同じものです。
・PCRにおいて、検査結果の「検出感度未満」は2つの場合がある。HIV陰性の場合と、治療が成功している場合。どちらも「検出感度未満」という。
・window periodは、「正確には何日」なのかは誰にもわからない。そこで受検待機期間として、検査方法によって60日待ってもらったり、90日待ってもらったりする。
・この「window period」と、「受検待機期間」を、混同する人がいるので、気をつけてください。
(3)講義③ 「HIV感染症に関する社会福祉制度」東京慈恵会医科大学附属病院 田之上武明
・相談支援の基本ポイント:非審判的態度。患者さん自身の「できる力」を奪わない。など。
・社会福祉制度は、「経済面」と、「生活面」の2つが考えられる。
・経済面は、まず健康保険、ほか身体障害者手帳、自立支援医療、傷病手当金、障害年金、雇用保険、生活保護など。平均で考えて、月10000円の自己負担となる。
・生活面は、おもに介護が必要な状況で使うもの。ただ年齢と状態で利用できるものは限られる。
・身体障害者手帳はCD≦500で認められる。内服していなくてもよい。CD≧500でどうかは各自治体に確認を。
・施設入所のとき:ぜひかかりつけの病院と施設とでカンファを=感染予防を理解し、偏見を生まないため。
(4)講義④ 「セクシュアリティとHIV感染症/エイズ」大阪府立大学 東優子
・「性の健康」というワードは受け入れられるが、「性の権利」というと論を呼ぶ。いまはhuman rightsの1つと考える。
・英語圏では、同姓婚とはもう言わない。Marriage equalityと言う。
(5)講義⑤ 「HIV検査の説明と告知、そしてカウンセリング」荻窪病院 小島賢一
・カウンセリングとは:そもそも、答えのない問題を話し合うのがカウンセリング。答えがあっても、その答えを呑めないときに話し合うのがカウンセリング。心のどこかにある解決法を一緒に探すのがカウンセリング。
・困難な問題は、いったん「棚上げ」できるとよい。答えのないことに捉まらないで次に進める。
・HIV感染症≠AIDS、なのは、一般には理解してもらうことが難しい内容である。ただ、これを理解してもらうことで、患者さんの理解が一歩進み、病院に行くきっかけになる(ので、必ず言う)。
・HIV抗体検査は、米国では唾液による検査もあるが、日本では認められていない。
・抗体検査のメリット:HIV感染症は、症状からはHIV感染症の有無が判断できない。検査でしか分からない。ということは、医療者にとっては当たり前だが、患者にとっては、「検査のメリット」として繰り返し言う価値のある情報である。
・妊娠中のHIV感染症は、無治療なら母子感染は25%。ちゃんと治療すればほぼ0%。ただし、治療開始の時期、出産はC/Sかどうか、などあるので、妊娠中のHIV治療は専門医へ。
・陽性告知のとき、医師が「大変」と慌てていると、そのイメージでPtも動揺します。
・陽性告知のとき、Ptの感情が動き出すまで帰さないこと。
・HAND(HIV-1関連神経認知障害)は、CT、MRI、採血では検出できない。神経心理学的検査のみで分かる。かつ、いまのところ現行治療を続けるしかない。VLが検出感度以下でも15-50%に軽度の認知障害が出る。
・HIV感染者の20%がC肝の重複感染あり。
(6)グループワーク1:検査前対応、陰性告知
・「陰性」といっても、「感染している」と思う人もいるので、「感染していない」と言葉にする。
・逆に「陽性」といっても、「感染していない」と思う人もいる。
・対応する数の多い陰性告知は、カウンセリングの一言一句をいつも同じにするのも手。定型化しておけば、Ptの反応を拾いやすくなり、何かあれば変化が分かるので、相談の必要性も拾える。
(7)グループワーク2 :陰性告知(予防的な関わり、リピーター)
・リピーターに対して生じる職員の気持ち→もし、職員の気持ちが、陰性感情なのなら、そのままでは解決は難しい。むしろ「いつも来てくださってありがとうございます」と話をしてみる。そして、リピーターから勉強させてもらう、というのが良い。実際、かなり勉強させてもらえる。
・2回目まで陰性、3回目で陽性、という場合もある。2回目のときに指導しておけば…と悔やむこともある。が、来てくれなければ、そもそも検出できないので、また来られる関係づくりを。少なくとも、検査で嫌な思いをさせないように、関わりたいですね。
(8)グループワーク3:判定保留、陽性告知、告知後の相談対応
・告知のゴールは、「病院に行ってくれる」という直感が得られること。
・告知後、まずPtには、パニックになって言いふらす人がいるので、周囲には言いふらさないでいてもらう。病院で治療しながら、落ち着いてから考えましょうと言う。
・病院の行き先は、Ptに決めてもらう。もし折り合いが悪かったら保健所に戻ってきてもらってOK、そうしたらまた紹介状を書くから、と伝えておく。
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