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2025年10月30日木曜日

公衆衛生医師を数値化することの愚かしさ

「公衆衛生医師」という言葉がある。これが指すのは、なにも保健所医師だけではない。いや、そもそも「公衆衛生医師」なんていう「人種」は存在しないし、この言葉は「行政で働く医師の育成と人材確保」が急務になって、やむにやまれず使われるようになった造語である。

公衆衛生は、コンセプト・マインドであって、特定の資格、職場、仕事内容や働き方で決まるものではない。「医師」の資格はオマケみたいなもので、公衆衛生は医師の専売特許ではない。


ところが、とある大学から調査依頼が来た。

「保健所長の先生たちの出身大学を調べているので、出身大学を教えてほしい。大学の運営に関する『学外有識者会議』で、保健所長の状況や保健所長(公衆衛生医師)の育成について質問があり、現況を調査することになった。」


詐欺?

いや、本物の問い合わせです。

え、えー・・・。


そもそも個人情報を聞き出そうという態度に問題があるけれども、百歩譲ってそれはいいです(隠してないし)。しかし、大学教育としての成果を、保健所長の多寡で評価できる(かも)と思ってるなら、それは大問題でしょう。まさか、自分とこの大学から、卒業生が◯人「保健所長になったか」で、公衆衛生への貢献度を測るつもりだった?


趣旨を確認したところ

「大学の状況を数値として『見える化』させることに取り組んでいる。そして、大学は地域に貢献したい。その『貢献度』を把握したい」

とのこと。


ほーら、やっぱり。

そもそも大学教育というものは、「成果」として、将来「〇〇に何人」と「数値化できるもの」であるワケがない。◯◯大卒が保健所長に〇人いるから、大学での教育はうまく行っている、なんて言えるワケがないし、出身大学なんて仕事に関係ない。そもそも職場は、臨床でも研究でも行政でも民間でも、本人が公衆衛生のためにやっていると思えばそれは公衆衛生です。繰り返しになるけど、公衆衛生はコンセプト、マインドであって、働く場所で決まるのでもなければ、職種でも、肩書でもない。


ということで、この大学からの問い合わせは、実は「個人情報を問い合わせたこと」が問題なのではなく、このような問い合わせをしてしまう「大学の公衆衛生医師育成へのスタンスの問題」だ、と私は受け取りました。つまり、この大学は「公衆衛生医師育成」を、たぶん何もしてないな、と。


たとえば内科だろうが外科だろうが「公衆衛生に資する仕事をする」と卒業生が考えるようになる教育を、大学にしていただきたい、と私は思っている。どんな職場のどんな立場にいようとも、公衆衛生の一翼を担う自覚が必要だし、そうでなくては公衆衛生は良いものになっていかない。


数値化、見える化、そーいうものを求められる側のツラさは分かるけど、「職種や肩書では測れない教育をやっている」と大学が胸を張って言えるようになってほしい。大学が公衆衛生のマインドを持っていれば、大学教育の「成果」をそもそも数値化することになんて頼らない、はず。

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