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2019年9月8日日曜日

第43回日本自殺予防学会総会に参加したメモ

第43回日本自殺予防学会総会2019年9月6日~9月8日に参加しました。そのときのメモです。

---以下---

<学校における自殺予防教育プログラム:GRIPの活用 川野健治>
・「SOSを出しやすい」環境を作るとか、自分で勉強するというのは、漢字ドリルやる子はできるからやるし、できない子はやらない、という状態と同じになってしまう。このクラスが、より相談しやすいクラスになるには、どうしたらいいか、という視点で、GRIPのアプローチを作った。だから、学校の中で支援が成立すること、先生と一緒になって取り組むことができるプログラムを提供することを目指した。先生と生徒みんなでやるものであって、GRIPはそのアプローチを提供するもの。
「支援する側と、支援される側」を固定しないこと、が一番大事。
・10年前、自殺予防教育をやり始めた時は、ストレートに「自殺の相談があったら大人に相談するんだよ」といったら、「先生は友達の相談をちくれというのか」といわれた。最初のころ、これは表面的なことをいっても届かないと気がついた。
・大学で自殺予防の講義を3日間やったとき、友達から自殺したいと言われたらどうするかというワークショップをやった。→リストカットしていた子から「ろくに私のことも知らずに、単純に自殺やめたほうがいいと言われても、イライラするわ。内容も知らずにみんなで相談するなんて」と。多くのみんなが正しく、リストカットしたことがある子が間違っていて、その子を助けてくれる、という一方的な構造は、予防になっていない。自分も相談できるし、自分も相談にのれる、先生も友達も、双方向性がある、というスタンスをGRIPは目指した。
・文科省の自殺予防教育の手引きと、GRIPとは、スタンスの違いがいくつかある。
1個人がSOSを出せることを目指すのが文科省、クラスが目指すのがGRIP
2文科省の手引きでは、自殺について明確に勉強しましょう」といっている。これは大事だがGRIPから外した、これは入れると学校に受け入れられにくくなるから。
・GRIPは、以上のような目標があって、積んでいってつくった。資料や動画は公開しているが、それだけを見てほしいのではなく、本を読んでいってほしい。
・相談してもらうところまで持ってくるのは難しい、だからGRIPやりませんか、というところから、スライドが13枚始まるようになっている。教員向けゲートキーパー研修から。
・「マインドプロファイリング」から始まるが、なぜカタカナになっているかというと、「カッコ良くなきゃだめだ」と言われた。でも「こうやってカタカナにするから勉強ついてこられない子が出てくるんだよ」とも言われた笑。ここまできたら直せないので、横文字が多いです、と。
・1-3は「自分の気持ちを、人に伝える」、4-5は「相談に応じる技術の習得」
・相談に応じる、とは、「相談に乗る方法」。決して、リストカット歴がある子が、カミングアウトしなければならない状況は作らない。どういう風に相談に乗ってあげるのが、うまい相談の乗り方か、を、シナリオにしてみるという方法をとる。
<コメントby平野>
GRIPは、「教材として」整えた授業を提供するツールとしては、優れているのだと思う。GRIPが大事にしたいことは理解できるし、背景にある考え方にも同意するところが多い。
 ただ、そうであっても「できる子ができる」という状態からは、あまり変わっていないのではなかろうか。どんなに「ハイリスクに効果があった」ことを証明しようとも、これは何の保障にもならない。その証明にはあまり意味がないことにGRIP作成者はすぐに同意くださるだろう。できる子ができる状態の授業というのは、それが授業として提供するという形をとり続ける限り、決して解決されない現象である。
 つまり、一体なぜ、GRIPの精神を伝えることをわざわざ5時間の特別授業にしなければ成り立たないのか、ということである。GRIPで伝えたいことは、大袈裟に言えば、人生における姿勢であり、態度であるが、なぜこれを切り取った授業の形にしなければならないのか。これは、普段から生活や授業の中で理解されていって当然のことではなかろうか。授業でいえば、国語や理科や算数の中にさえ、自殺予防に関連するエッセンスは、入るべきではなかろうか。
 たとえば「あいさつをしましょう」と授業で習ったり唱和したりするよりも、毎朝おはようと言えばよい、という話である。ここで授業では「あいさつをしましょう」と習うけれど挨拶ができない、というのは、決して授業が悪いからではない。周囲の慣習として「おはよう」と言い合うことがないに尽きる。だから「困ったら相談しましょう」などと言ったところで、この言葉には実体がない。本当に「相談」が大事だと思うのなら、日頃の慣習として相談し合い、意見を言い合い、お互いを尊重しあう、そんな社会であれば「相談」する状況は自ずと生まれる。
 もう一度言っておきたい。特定の時間をとってやっているということは、それ以外の授業では、自殺予防の態度にならない、ということである(GRIPをやれば他の授業でも効果がでる、と考えるほど、楽観的にはなれない)。本来は、空気を吸い、水を飲み、睡眠をとることと同じくらい自然に、自らを大切にし、相手を尊重する生活こそが、自殺予防そのもののはずである。

<大会長講演 森山花鈴 支えあいとつながりで皆で紡ぐ自殺対策>
・南山大学、社会倫理の研究をしているところ、スタッフは4人しかいないこじんまりとした研究室にいる。
・「社会倫理プラットフォーム」という勉強会を、コンスタントに毎月開催している。
・自殺対策の中では、自分の専門は「政治学」の行政学、政策過程論なので、珍しいはず。
・なぜ自殺にかかわるようになったのか:大学で勉強していた
政治学を最初になっていたときは、戦争や紛争がなくなれば、テロがなくなれば、いいんじゃないかと思っていた。日本みたいになればいいんじゃないかと思っていた。が、大学3年のとき、本当に「日本みたいになること」がいいことか?と疑問が生じた。また、紛争で亡くなる人よりも自殺で亡くなる人の方が多いんじゃないか?と(当時、毎年3万人日本で自殺していた)。
・「自殺は個人の問題だから、政策学にならない」「もっと違うテーマを選びなさい」と先生に言われた。「自殺対策は政策にならない」と、国家が個人のことに介入するべきではないんじゃないか、と当時は言われた。
・「自殺対策」は専門家にしか関われない?。でも、専門家と、一般の人を埋める必要があると思った。研究者と対等に話すために、なかばヤケで博士号をとった。
・1998年、山一證券破たん、などがあったとき、自殺者数が3万人を超えた。ただ、この当時は、自殺者数の統計が出るのは翌年7月だった。
・で、自殺者数の急増から8年間たち、遺族の実名公表などがあって、2006年に自殺対策基本法が議員立法で作られた。
・自殺者数が2万人台に減ってきて「なんとなく、これでいいよね」となっているのが心配。まだまだ数は10万人当たりの自殺者数は諸外国と比べてトップレベル。
・最近、気になっているのは、若者の自殺者数。これがなかなか下がらない。日本はG7の中でただ一つ、15歳~34歳までの死因の第一位が自殺。
・愛知県に来て、自治体に講演に呼ばれることが増えて、必ず質問されることが2つ。
1「自殺対策というのは、どういう対策を具体的にすれば、数が減るのか」と質問される。ただ、自治体としてこれをやれば減るというのは、エビデンスはない。
2「自殺対策は担当課がやればいいんじゃないか、専門家しかやっちゃいけないんじゃないか」と質問もされる。しかし、自殺対策は特別なものではいけない、一人ひとりがやればおのずと減ってくると思う。担当課ではなく、すべての課が関わる。なので、すべての課が、できることから始める、のが大事。
・精神科受診中に自殺で亡くなると、医者が責められることが、他疾患で亡くなったときよりも多い。これは、精神科医療をきちんと評価しきれていない、ことの裏返しだとも思う。
・遺族支援」の視点は、忘れてはいけない。
・自殺総合対策とは
1. プリベンション:事前対応:普及啓発、共育
2. インターベンション:危機介入 など
3. ポストベンション:遺族対応 など
・ここからは最近の大学生の話
高校生までは性」の問題は、ちょっと進んでいる子の問題だったが、大学生になると自分の問題としてふりかかってくる。
・「このブラックバイトを乗り切れなかったら、ブラック企業でやっていけない、だからバイトをやめてはいけない」という学生がいて驚いた。自分の身を護ることも教えていかなければ。
・授業:4月から8月まで、1200人の学生が受講した
女性の社会進出、生命倫理、自殺対策の3つあるうち、自殺対策を扱う授業が一番人気。
・学生は、就職するまでのことは習うが、就職したあとで、休職したらどうするか、税金のことはどうするか、などは習わない。自分の身の守り方を、習わないまま、大人になる。
・南山大学には保健センターがあるが、精神科Drが常駐している。で、トークセミナーでDrが、「友達が死にたい」って言ったらどうする?とやってみた。200人中、100人から、質問票が帰ってきて、悩んでいる子の多さが身に染みて分かった。
・妊娠、出産までのトラブル、結婚、離婚、などについて、出産が可能な年齢とか、どうやって妊娠するかとか、学生は知っているようで、ぜんぜん知らない。で、悩んでいても、どうやって、だれに相談していいのか、悩んでいる子が多い。
・どこにも言えなかった悩みを、授業の質問票に書いてくる。教官は、学内のリソースをきちんと知って、進学や進級に関しても(授業外のことも)知っておかなければならない。
・教員の悩み
合理的配慮、不安を抱える学生、に際して、どう対応したらよいのか悩む。気づいてしまったら、責任を
とらされる不安→教員も、知る、ことが必要。
・専門職でなくても、自殺リスクのある学生にかかわる可能性があるが、勉強会には専門職の出席ばかり。
・フィンランドは自殺者数を30年かけて55%減らした→フィンランドでは「経験専門家」という言葉がある。資格とか専門とかではなく、「その経験をした専門家」と言える。

<アンドレア カールソン>
・自分の家族も多様性に富んでいる。
・「多様性」は美しい。
・しかし、まだ、受け入れ、理解、包せつ、は欠如している。
そのため、いじめ、差別、いやがらせ、非難、は、消えない。
・在日コリアンの自殺率が高い。
・コミュニティー内のつながりが弱く、そのため子どもたちは、いつも不安に思っていることがあっても、つながりの助けが得られない。
・TREVOR プロジェクト:NPOで、色々なことをやっている。若いLGBTQの自殺予防とか、研究。
「自殺を考えたことがある」と答える人は、トランスジェンダーにより多く、18歳以下に多く、未遂者も同じ傾向がある。
・米国でも、トランスジェンダーの子は、自殺未遂者が多い、40倍。
で、CDCが、自殺対策のストラテジーを2018年に示している。
・日本での、英語によるメンタルヘルスの相談先
telljp.com(アウトリーチが豊富、ただし東京中心)、IMHPJ.org(データベース、カウンセラーは東京)、日本いのちの電話連盟、名古屋国際センター(数か国語に対応し、面接相談も可能)、lgbt-japan(ぴあサポートグループ)、asta(ワークショップするので、小さなグループのときには良い)→本当に大事なのは、身体的特徴ではなく、人格や人柄、と。

<シンポジウム1 自殺予防と国際協働活動>
1.韓国の自殺率の推移とこれまでの対策 Jong-Woo Paik 韓国 中央自殺予防センター長 Kyung Hee Univ.
・韓国の自殺予防について
韓国では自殺率のピークで10万人あたり30人をこえたので、それをうけて2011年に自殺対策法が作られた。中央自殺予防センターは2012年にできた。予算は保健福祉部(国)からもらうが、チームは7つ、教育、研究、などがあるが、特徴的なのはメディア情報チーム。
・職員は全体で42人おり、メディア情報チームは6人、24時間:大学生のサポーターが200人いて、マスコミの悪い情報を検索し、芸能人が自殺したとかのタイトルがあったら、注意喚起?とかする。マスコミのための研修もやる。
・組織としては、NPO自殺予防協会の下にあるのが、中央自殺予防センター。
・自殺予防協会は2004年からスタートしたが、自殺数のピークは2011年、で、農薬を禁止して老人の自殺が減った、これは法律による効果。法律のおかげでいまは12億円の予算がつくようになった。救急室を支援する(自殺未遂者を管理する)という対策もできるようになった。
・OECDの中で自殺率は、リトアニアについで韓国は2位、日本は5位。(リトアニアがOECDに入る前は13年連続で韓国が1位だった)。IMFのときにピークが上がる。2017年には自殺者数は1万2千人にまで減少(自殺率24くらい)。
・2011年に法律ができて、大きく変わったのは、田舎で農薬グラムクソンが禁止されたこと、これにより自殺率が30%くらい減ったが、その代わり、練炭自殺が増えることも起きた。
・60歳以上の高齢者では、韓国は1位の自殺率。40-50歳はベビーブーマーなので、自殺死亡者数が多い。
・韓国では自殺は死因の5位で、交通事故の2.5倍。首吊りが多い。
・自殺原因調査の結果は、日本と韓国は似ている。1うつ病の治療不足、2経済、3身体疾患
・OECDの中で、韓国は社会的サポートがもっとも低い。産業化と民主化の影響で、核家族が急激に進んだので、世代間格差が大きい。
・1980年代、北欧3国もいまの韓国と同じだった。
・近年、自殺遺族がTVに出たり、声を上げやすくなった。大統領が直接、自殺に関する活動の推進を訴えている。
・宗教関係者も働きかけをして、民間団体と公的機関のコネクションも作った。
・2011年、韓国の自殺予防研究会が、KASP(見て聞いて話す)というプログラムを作り、115万人が累積で受講し、ゲートキーパーになった。
・いま、韓国の自殺データを分析して、地域によって必要な対策を作るために役立てようとしている。
・日本の法律を参考にして韓国でも法律を作ったが、
首相をトップにして会議を開くということもするようにした。
患者さんがカウンセリング受けるとき、保険点数は高くしたが自己負担は安くする、という改革も行った。
・1970年代の民主化のときに、自殺する人を尊敬するという風潮もあったが、逆に恥ずかしいと考える文化偏見もあった。で、有名なきっかけになったのは、母子の心中事件。これが社会問題だと認識するようになって、変わってきた。

2.韓国の自殺未遂者の事後管理Kim Na Ri  韓国 Kyung Hee Univ.
・2011年~2012年、早稲田大学修士課程
・いまは大学で社会学の研究など
・日本の2005年からのaction j と、医療保険に収載されたことが日本の特徴で、河西先生の論文に驚いた。
・action j の研修(救急向け)は、診療報酬算定のための研修になっているのが良い。これを参考に、韓国でも、国際ワークショップをやった。
・韓国では2010年から救急室ベースの自殺未遂者の事後管理サービスが始まった。ほか3か所の病院で2012年に始まった。研修会はまだ診療報酬ではないので、政府予算である。
・「命愛の危機対応センター」が大学病院内にあり、救急科、ケースマネージャーチーム、精神科の3チームで構成。救急室で自殺未遂者だと判断したら、ケースマネージャーに依頼し、ケースマネージャーが評価し、治療が必要なら精神科に回す、と。入院しない場合は、週1回、1か月間、ケースマネージャーが面接する。病院にもよるが、場合によっては1年フォロー。入院でもケースマネージャーフォローであっても、終わる前には地域の自殺予防センターや精神健康福祉センターにつなげる
・2016年は27か所の病院しかなかったが、2019年には63か所(救急がある517か所のうち)の病院に命愛危機対応センターの窓口がある。
・サービスを受けた人と、受けていない人を比べたら、受けた人の死亡率は1/3に下がった。
・医療費を支援したら、支援しなかった人よりも、自殺が減った。
・これからの課題
命愛のサービスを行う救急病院の数がまだまだ少ない
病院から地域への連携が難しい
命愛のシステム(退院後の事例管理と、危機管理センター)が報酬になるように、モデル事業を2020年から行う。

3.韓国の自殺問題と対策の比較
・日本は1998年の自殺激増をうけて、国と自治体が対策にのりだした。それまでは、何もなかった。
・日本で自殺対策は、2017年は、750億円の予算。このうち真水は少ないかもしれないが、関係部署に声は確実にかかっているので、それだけでも意味がある。自殺白書に載っている。
・韓国でも、法律ができてから、対策が強化された。Jin Pyo Hong「2004年から始めたが、予算と実行力の不十分さのため」。で、2011年に法律ができて、予算がついたので、効果が出たと思っている。
・日本は、予算上は「社会的な取り組み」に偏重している。で、実体が分からないまま、対策が進められている。また対策の優先順位が不明確。
・日本には自殺を許容する文化的背景があることを認めなければならないのではないか。だから山一のときにあんなに増えたんじゃないか。文化的背景にも切り込んでいく必要がある。

<シンポジウム3 自殺と社会>
1.なぜ自殺死亡率は変化したのか?寄与度分解による基礎的分析 桃山学院大学 平野孝典
・なぜ離婚率が上がると自殺率が上がるのか、理論的な考察はあるが、統計的な因果関係は難しい。このようなことをどうやって証明していくか。
・景気が悪化すると自殺死亡率も変化するのか?
よく知られていることではある。2パターン考えられる。①景気の悪化→ハイリスク者の増加→全体の自殺↑。②無職者の自殺↑→全体の数が↑。どちらかは、寄与度による。
これを解析するには、「寄与度分析」をする。
・「無職者の自殺」の寄与はわずかであり、自殺死亡率が上がったこと自体が寄与が大きかった。減るときも同じで、「無職者の自殺が減った」ことはあまり寄与しなかった。無職者の母数の大きさの問題。
・自殺率の上昇期と下降期では、それぞれ上下の理由が異なる。
ステレオタイプの理解とは異なる。

2.自殺念慮関連要因に基づく心理状態の類型化とその特徴 名古屋市衛生研究所 平光良充
・心理的要因にはいくつかあることが知られているので、類型化してみた。が、リミテーションも多い。
・心配や相談事があっても、居場所があればいい、とも。

3.つながりつつも、しばらないという選択 情報システム研究機構 統計数理研究所 岡檀
・2008年から、海部町でフィールドワーク開始。かたや同じ県で自殺率が高いところがあったので、そこと比較した。
・インタビュー200人以上、3300人の町民にアンケート。
・海部町では、赤い羽根共同募金が集まりにくい→みんながやるからやる、という同調圧力がない。全体主義が嫌い。つながっているが、縛られない。
・コミュニケーションはきれていないが、意外とあっさりしている。どの地域を分析してみても、「緊密なつながりのコミュニティであるほうが、相談事は打ち明けにくい」
・いろんな人が、いたほうがいい。いなくちゃならない。だから特別支援級の設置に反対した。
・問題があるのなら早めに市に出してしまえ、やせ我慢ほど悪いことはない。海部町は、だから「うつの受診率」が高い。その結果、軽症で受診する。うつに対する偏見がない。うつっぽい人がいたら、「うつなんではないの?受診しな」と言ってしまう。
・噂は駆け巡るが、同調は嫌う。関心があるのであって、監視しているのではない、と、判別できている。

4.現代における、社会と自殺のかかわりをどう見るか? 南山大学 阪本俊生
・デュルケムの自己本位的自殺が、いまの研究では、社会関係資本論などになっている。で、これはこのままでいいのか、絆が強いところほど、自殺が多いぞ、と。
・ボードロとエスタブレの研究
デュルケムがいっていた19世紀と異なり、20世紀後半では、自殺は都市部から農村へ、高等教育は自殺の促進から抑制へ、貧困層が自殺しなかったのが自殺増える、というように変わっていった。変わらなかったのは、戦争中は低い、ということとか。
・経済と自殺との関係が、19世紀と20世紀で異なった。個人主義化が、自殺促進から、自殺抑制に。
・19世紀の個人の生の意味は、集団や組織だった。20世紀は、個人自らが創るものになった、創造的個人主義。
つまり、19世紀は、集団や組織から離れることが自殺を促進する要因になった。20世紀は、個人が自らの生の意味を作り出せなくなることになった。20世紀以降の社会で、個人の生の意味を作り出すのは、仕事と消費だ、といった。
・しかし、ボードロたちの創造的個人主義には、問題がある。
個人と社会のかかわりが不明確
創造的個人主義があてはまるのは、フランスの栄光の30年で、中間集団がもっとも発達した時期
個人化が進んだのは、むしろ1980年代以降
1990年代以降のデータには、うまく当てはまらない。
ので、「社会」にもっと光をあてる必要がある。
・個人の「フェイス」と。

1970年代に日本自殺予防学会が発足したが、「在り方委員会」が1998年より前に何度かあった。自殺予防ではなく、もっとニュートラルに、自殺学会でいいんじゃないの、という議論もあった。が、やはり自殺は予防すべきだという意見が大半をしめて、日本自殺予防学会から枝分かれしたのが、日本臨床死生学会。

<自殺予防と安楽死 横浜市立大学 国際教養学部 有馬斉>
・医師による自殺幇助が法的に認められている国は、オレゴンに始まって、徐々に増えてきた。

<過労自殺の予防について 弁護士 生越 照幸 ライフパートナー法律事務所 from 大阪>
・相談者からメールで、弁護士宛に、遺書が送られてくることもある。
・自殺患者のカルテも日常的に目にする、中には生きている患者のカルテもある。
・産業医も、精神科主治医も、現状、過労自殺の予防に関しては、何も役に立ってない。
産業医=気晴らしに休んでみたら
精神科主治医=薬増やしておくわ
・産業医に関して、いままでは、関わり方には法律的にも限界があった。しかし、働き方改革により、産業医に関して大幅な改正があり、できることが広がった。
・過労自殺は、いろいろ理由があっても、結局は「経営の失敗」である。
仕事に対して人が少なすぎる=長時間労働になる。これには労基法があって割増賃金が発生する。しかし使用者は、コストがかかるので、ここを未払いにする。本当はダメでサービス残業だが、社内ルールができていく。45時間ルール、45時間までは残業をつけていい、というルール。これは80時間でも45時間しか存在しないというもの。
名ばかり管理職:管理職として残業代を払わないという。しかし賃金として目安で800万以上でないと払われない。
名ばかり裁量労働
請負化:君は委託だからね、請負だから、労基法関係なく、いくら働いてもいいよね、と。エグい。
→このような社内ルールが、過労自殺を生む。
・健康経営とは?:もう焼き畑的な労働ではもたないぞ、ちゃんと社員を守ってくださいね、と。
・働き方改革による産業医機能の強化:今までできてなかったことの裏返し
知識および能力の維持向上に努めなければならない。
医学的な知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
やる気のある産業医が辞任したり解雇になったようなときは、衛生委員会に報告義務ができた。
事業者は、労働者の労働時間に関する情報を、産業医に提供しなければならない。
産業医が使用者に、労働者の処遇について提案したら、使用者は産業医にレスポンスしなければならない。
産業医の権限の明確化:いままで明確化されていなかった。今回の改正で権限が明確化された。重要なのは九:労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること、が、権限になった。
事業者に対して意見を述べること、必要な情報を労働者から収集すること、も。
産業医に相談に来ないので、産業医の業務内容を労働者に知らせること
一次予防(職場環境の改善):産業医が情報を的確に把握する
二次予防(早期発見):産業医が信頼関係を築けなければムリ
三次予防(休職、復職):業務起因性を適切に判断できるか。
・労働時間の齟齬について
「労働時間」といったときに、法律上、いろいろな定義がある。
1.労基法上
A:刑事上の労働時間:罰則がついている、狭い概念
B:民事上の労働時間:賃金の対象になるもの、指揮命令下にある時間
2.過重性判断のための労働時間:支配下にある時間。たとえば、持ち帰り残業、出張の移動時間、会社主催の釣り大会など
・グーグルマップのタイムラインの位置情報:労働時間の判断にも使われている。産業医が提案してもいい。
・ハラスメントと業務指導の範囲
「業務指導の範囲」かどうかが、問題になる。
国の定義では、労働者の苦痛の面がない。就業環境の定義になってしまった。が、一応、この国の定義でやっている。
・ハラスメントの兆候:部下がよくやめる、パフォーマンスが悪い、欠勤回数、休職者の数、遅刻の回数などにも表れるので、客観的にもハラスメントが起こっていることがつかめる。
・ストレスチェックで高ストレス状態にある人のうち、産業医の面接をうけたのは、わずか0.6%。
面接指導をうけない理由:いろいろあるが、会社に知られたくない、人事上の不利益を得る、面接しても変わらない、と。ここは産業医がきちんと勉強して、「面接しても変わらない」なんてことはない状態にしてほしい。
・業務起因性の有無に関する判断
自然退職扱いにする事例は枚挙に暇がない。が、判例は多い。
うつ病で休職期間に入っても、業務起因性があれば解雇しても解雇は無効になる。つまり、職を失わない。また、就業規則上の休職期間に関する規定(2年)が適用されない。その結果、職は失わないですむ。
なぜこれが問題になるのか→病気になったときに、みんな早く復職しようと焦るから。
で、業務起因性の要件は3つあるが、1.2が満たされれば、3は問題にならない。これを産業医Drは、医学的には3は問題があるが、労災要件としてはほとんど問題にならない(医学的には別であっても)。
・産業医ができること
業務起因性の判断をする必要が産業医にもある。
産業医は自ら能動的に情報を取りに行くべきである。
産業医だけでムリなら、弁護士にコンサルする。
産業医は、労働者に、労働者の地位を説明する必要がある。
主治医は、会社と話しても保険点数にはならない。会社は主治医と契約して相談料を払い、会社は主治医に意見を聞いたほうがいい。産業医は、それを後押しできる。
・主治医について
業務起因性がある以上、無理をして復職させる必要性がないことを前提に、治療を進める。で、労働者には、そういう休職する権利があるんだよと伝えるほうが、治療がうまくいくと思われる。
会社が費用を負担しない場合でも、可能な限り、産業医や会社関係者とコミュニケーションを図り、復職のための環境調整を行う。
・残された課題
法律は整備されたが、実務が動くかどうか。産業医も、この法改正の中身を知らない人が多い。
産業医が選任されない職場はどうするか
高プロ適用者の健康管理時間のうち事業場外のろうどうじかんをどう把握するのか
ダブルワークに従事する労働者の労働時間をどう把握するか。労基法は通算だが、いま検討会では、それぞれ計算と話が進んでいる、事業所ごとに計算となるので、どうやって健康を守るのか。外国人もしかり。
・ハラスメントをしていることを自覚できない上司は、ハラスメント指導しても変わらない。で、裁判にまでなると、最終的にその上司が辞めることになる。

<てんかん患者の自殺予防 愛知医大 兼本浩祐>
・通常のライフヒストリーとは違う自殺にいたる
・てんかんによる自殺の頻度:うつ病、不安障害>Psychogenic seizure>パーソナリティchange(側頭葉てんかんに伴う)
・てんかんに伴う抑うつや、不安は、発作なので3分くらいで終わる。しかし、まれに発作が多い人がいて、こうなると3分くらいであっても1日中続く。抗うつ薬は効果なく、抗てんかん薬でてんかんをコントロールするしかない。
・発作間欠期抑うつ:てんかん発作をコントロールしても残る抑うつ。訴えが少なく、分かりにくい。で、早期発見早期治療が大事で、それはその通り
・だが、数が多いのは、側頭葉てんかんタイプ。SSRIは効かない。本人はうつ病というが、実は「てんかん性不機嫌症」。すごく怒りやすい。ので、薬の種類でコントロールする(てんかん薬の中の粘着基質を増すのをやめて、てんかんが増えてもいいので粘着にならない薬に変える)。こういう人は自殺しにくい。本人がてんかんの抑うつといっても、客観的には違う場合がある。ただ、この人にBDIのratingすると、うつ病になってしあうので、ratingで診断してはいけない。
・てんかんor心因性の区別
てんかんは、起承転結がある。強直間代性は、ううー声、体がまがる、声上、小刻みなふるえ、大きいふるえ、ふーっと息を吐く。
心因性ではこれはできない。
・高校生
いままで抗うつ薬を出していた、てんかんとは分からなかった。で、自分の頭越しに決められていたので、怒っていた。「自分でてんかん発作を止めたい」と言えるようになって、デパケン出して、発作は収まり、学校に復学もした。
・一方で、てんかん発作は止まったが、うつ症状がしっかり数年後に出てくる人もいる。訴えは少ないが行動はしっかりしているので既遂になってしまう。SSRI・SNRIしっかり使う。
・側頭葉てんかんオペ後に、急激に抑うつになる場合がある。薬のコントロール困難で、医療保護入院にして、てんかんに禁忌のLiも使ってようやく抑うつがなくなるような場合もある。オペ前からハイリスクとして扱う。特に海馬硬化がある人のオペ。ただし抑うつにはピークがあって、必ず治るので、一時的に監視下におく。
・発作後のもうろう状態:野生の動物を保護しようとしても噛みついてくる、と同じで、本人は覚えていないが、もうろう状態で、何をするか分からない。

<身体疾患の患者さんの自殺予防 特にがんに焦点をあてて 名市大 明智龍男>
一般人口に比べて自殺の危険は優位に高い
危険が高いのは診断後早期の1年以内、特に数か月以内
サバイバーシップのヘルプも大事
うつだけではないが、うつはやっぱり関与している
ニュージーランドのSiegelの主張「65歳以上のがん患者の自殺は、合理的な自殺が多かった、80%以上の自殺は合理的だった」と。こういう主張も出てきたので、今後の倫理的課題。死んでもいい、自殺すればいい、という議論になりかねない。自立性、自律性、依存性をめぐる個別的問題への対応を。
ディグニティセラピー:日本でも有効ではある、研究でやったとき、参加者の満足感は高い。しかし、86%は参加を拒否した(考えるだけでもつらい、など)。で、研究は途中で中止した。大切さは分かったので、今後も工夫してやっていきたい。

<脳科学が語る「生きる」 名古屋市立大学 粂和彦>
・k-net.org に、パワポあり
・1980年代、癌は告知しないのが当たり前で、それでも胃癌の手術していた。
その当時、アメリカではICが盛んだった。
・でも、自己決定は、絶対なのか。
・タチアナとクリスタ:一卵性双生児で脳もつながっているが、性格も好みも全然ちがう。
・デカルトは、すべてを疑っていた、これはたぶん正しい。私たちは自分の解釈で生きている、その解釈は気分で変わる。
・デカルトは、すべてを疑っていたが、疑っている自分がいることは否定できないだろう、として「われ思うゆえにわれあり」といった。自分の中に核となる自分が1人いる、と。これは、いまは違うと言われている。(そりゃそーだ)
・自分の中に本当の自分なんてどこにもいない。平野啓一郎 個人と分人
・微笑み、chin up、は、本当に効果ある。
・立教大学 河野先生 拡張する心

<介護殺人の現状 日福 湯浅悦子>えぇ~、中途半端なところで終わる・・・
・全国、ある程度同一のパターンがある。「京都伏見の介護殺人」が典型的ケース。
・憎いから殺すのではない。ほとんどの例で、介護をとても親身にやっている。
・介護疲れ、だけではなく、「迷惑をかけたくない」のウエイトが重い
・将来を悲観するケースもあり、生きづらさに関連して、根が深い。
・決して介護=つらい、というのではない。介護のおかげで世の中とつながったという人もいる。

<虐待を考える 弁護士 岩城正光>その通りなんだが、あまり集団の知性を活性化させない。
・メディアでは一過性のニュースばかり。
・ディスレクシアの場合、明朝体では読めなくても、丸文字なら読める場合がある。
・日本では、昭和60年頃になってようやく児童虐待が言われ始めた。
・世界では、1874年米国メリー・エレン事件からスタート→イギリスに飛び火してイギリスで法律ができる。
・日本で昭和40年代にも虐待に関して検討されたが、当時、厚生省「我が国には児童虐待はない」といったby我妻ひろし、たかし?。
・法律は相対主義。誰かと誰かの調整の話。
・親が加害者だとしても、実は、虐待をしてしまうところに追い込まれた被害者である。
・ネットワークは無責任になるので、これで予防はできない。
・ドイツの家裁は、積極的に介入する。親と契約をかわし、親に「やること」を命令する。ドイツの家裁は日本でいう簡易裁判所。火災の数:日本は420、ドイツは650ある。かつ、ドイツの民法には、裁判所は家庭問題に積極的に関わらなければならないと規定がある。
・地域は崩壊している。支えあいを地域でやるのは無理。行政が地域を活性化させるための手立てを示さなければ、進展はない。

<自死遺族支援 愛知県自殺対策推進協議会委員 花井幸二>
・「予防」は、遺族からすると、関わりにくい。かつ、矛盾する政策も出てくる。
・10年前、予防対策を作るとき「経験を遺族に話してほしい」といわれたが、遺族の犠牲の上に自殺予防は成り立たない。
・「STOP自殺」の意図するものに反論して記事にしたら、さらに「どれだけ迷惑かけてると思ってるんだ」とネットで誹謗中傷きた。

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